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野球を通じて6ヶ国を渡り歩く38歳村田透が今も変わることなく味わい続ける投げることへの喜びと感謝

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨シーズンはドイツリーグに在籍していた村田透投手(本人提供)

【チェコリーグ球団が村田透投手と正式契約】

 昨年開催された第5回WBCにおいて、侍ジャパンとチェコ代表の心温まる交流がクルーズアップされて以降、日本でもチェコの野球事情が注目され始めているように感じる。

 そんな中、4月に開幕予定のチェコリーグ(エクストラリーガ)の「Hrosi Brno」(チェコ南部のブルノを拠点とするチーム)がインスタグラムの公式アカウントを通じて、巨人や日本ハムなどに在籍した村田透投手と正式契約したことを発表した。

 この発表を受け村田投手もFacebook上でメッセージを投稿し、「初めての国に行って(野球が)できるのはワクワクが止まりません(笑)」と新たな挑戦に胸を膨らませている。

【インスタグラムのDMを通じて元同僚が勧誘】

 これまでチェコリーグに在籍した日本人選手が存在するかは定かではないが、村田投手とチェコリーグに接点があったようには見えない。そこで村田投手本人に確認したところ、意外な答えが返ってきた。

 「数週間前のことですが、インディアンズ時代のマイナーキャンプでちょっとだけ一緒だったチェコ人の捕手から、インスタグラムのDMを通じて「僕が契約したチームが君を欲しがっているんだけど興味はあるか?」というメッセージをもらったんです。

 最初はそれほど気乗りしていなかったのですが、その後もドイツリーグで一緒にやっていた選手2人からも立て続けに勧誘メッセージが届いたんです。そこでチームが真剣に僕を欲しがっていると感じ、話を聞いてみることにしました」

 村田投手によると、昨シーズンに所属チームを模索している際も、彼が契約したドイツリーグ(ブンデスリーガのボン・キャピタルズ)以外に、同じチームから勧誘を受けていたという。そういった経緯もあり、チームと入団交渉を進める中で彼らの熱意を感じ、入団する気持ちを固めていったようだ。

【日本ハムから戦力外通告を受けて以降5ヶ国目】

 村田投手の野球人生は、決して平坦なものではない。

 2007年に巨人からドラフト1位指名を受けた後、1軍登板を果たせぬまま3年間で戦力外通告に。そのオフに合同トライアウトに臨み、インディアンズからマイナー契約のオファーをもらいMLB挑戦をスタートさせた。

 インディアンズでは傘下のマイナーリーグを主戦場としながら、2015年にダブルヘッダーに伴う特別枠でメジャー初昇格を果たすとともに、同シーズンは3Aインターナショナルリーグで最多勝のタイトルを獲得する活躍をみせた。

 その後はメジャー再昇格を果たすことができず、2016年オフにFAとなり、日本ハムと契約しNPBに復帰。日本ハムでは先発とリリーフで計75試合に1軍登板を果たしたが、2021年に自身2度目の戦力外通告を受けた。

 その後も現役続行を目指し、海外も視野に入れながら所属チームを探し続け、2022年冬はABL(オーストラリアのウィンターリーグ)のオークランド・トゥアラタ(ニュージーランド)、2023年にはシーズン途中からボン・キャピタルズ、シーズン終了後もABLのアデレード・ジャイアンツに在籍するなど世界を渡り歩いている。

 日本ハムから戦力外通告を受けて以降今回のチェコリーグで4ヶ国目だが、インディアンズ時代にはパナマのウィンターリーグにも参戦しており、それらを含めると6ヶ国目(米国も含む)となる。

【欧州リーグは「トップスポーツではない」ことを実感】

 サッカーを筆頭に人気プロリーグがひしめく欧州において野球という競技は発展途上にあり、MLBやNPBを経験している村田投手からすれば、昨シーズン在籍したドイツリーグでも、決して恵まれた環境ではない中で投げる体験を味わっている。

 「アメリカの独立リーグには所属したことがないので比較できないですけど、取り巻く環境は野球が現地でナンバーワンのスポーツではないなというのを感じられました。

 少なくとも米国ではマイナーリーグでも球場はどこも良かったですし、芝生がボロボロなんてほぼなかったです。それと比較すると(環境面は)違うかなと感じました。球場によってまちまちな面はありましたが、かなり劣悪な環境の球場がありましたね」

 知り合いからドイツリーグとチェコリーグはほぼ同レベルのリーグだと聞き及んでおり、村田投手はある程度覚悟を持って新リーグに挑もうとしている。

【投げられるチャンスを与えてもらっていることに感謝】

 今年5月には39歳になることを考えれば、そろそろ「現役引退」という4文字と背中合わせの状況にあるだろう。しかも環境面のみならず収入面でも厳しい欧州リーグやABLなど世界を舞台に転戦を続けるのは決して簡単なことではない。

 それでも村田投手の「投げ続けたい」という意欲はまったく揺らいでいないようだ。

 「野球に携わりながら世界を回り、いろいろなことを学べるというのは魅力的ですし、楽しさを感じています。この年齢になっても、野球だけでなく私生活を含めたすべての面で新たな刺激をもらえるというのは有り難い限りです。

 大変といわれれば大変なのかもしれません。その中でも自分はしっかりやり甲斐を感じられていますし、今も投げられるチャンスを与えてもらえていることに感謝しています。

 環境面や条件面などもかかわってきますけど、身体は元気ですし、やれるのであればやり続けたいです。何か今も(野球選手として)生き続けている、勉強しているというのを日々感じています」

 村田投手は今後も日本国内で調整を続けながら、シーズン開幕に合わせてチェコ入りする予定だ。彼の地での活躍を祈りたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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