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結婚報告会見で水原一平通訳の英語訳から感じ取った大谷翔平の思い

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
結婚発表の翌日にメディア対応した大谷翔平選手と水原一平通訳(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【結婚報告翌日にメディア対応した大谷選手】

 現地時間2月28日夜にインスタグラムを通じ、突然の結婚発表を行った大谷翔平選手がメッセージで予告していたように、翌29日に日米メディアの囲み会見に応じ、改めて結婚したことを報告している。

 会見の様子は主要TV局がYouTube上で公開しており、すべての質疑応答を確認させてもらった。会見場で見せた大谷選手の表情をどう捉えるかは人それぞれだと思うが、時折笑顔を覗かせていたものの、個人的にはいつも以上に固い表情をしているように見えたのは自分だけだろうか。

 これまでもプライベートな部分は表に出すことがなかった大谷選手だけに、本来ならSNS上の結婚報告だけで済ませたかったのだろうが、会見で2度にわたり「(メディアの)皆さんがうるさいので」という言葉がすべてを物語っているように思う。

【水原通訳の英語訳に感じた大谷選手の思い】

 実は米メディアからの質問に限られた会見前半部分で、大谷選手の回答を英語に訳した水原一平通訳の英語訳にちょっと注意を引く箇所があった。

 米メディアの質問は「なぜこの時期に発表しようと思ったのか?このように注目が集まるのは分かっていたと思うが」というものだった。この質問に対する大谷選手の回答は、以下のようなものだった。

 「シーズン中より入る前が自分自身もそうですし、他の全部をトータルで見た時にもちろん入る前が一番ベストじゃないかなというところだったのと、時期に関してはいろいろ書類を整理しないといけないところもあったので、時期的にもうちょっと早めにしたかったというのはあるんですけど、そういう関係で少し延びて今日になったという感じですかね」

 これを水原通訳は以下のように訳している。

 “I felt like it was good timing because it was before season. I didn’t want any distractions when the season started. And I would have liked to announce it earlier, but there was some paperwork issues that lagged the whole process. So that was the whole deal.”

 つまり水原通訳の英語訳では「シーズンがスタートする際に、混乱を持ち込みたくなった」という箇所を加えているのだ。あくまで憶測の域を超えることはないが、これまでエンジェルス入団以来6年間公私にわたり大谷選手を支えてきた水原通訳だけに、彼の胸の内を誰よりも理解している人物だ。結婚報告という私的なことでチームに迷惑をかけたくないという、大谷選手の思いを代弁しているように感じてしまった。

 大谷選手がもう少し早く発表したかったと説明しているように、本来ならプライベートな部分を球場に持ち込まないようにするため、スプリングトレーニングが始まる前に済ませておきたかったように思う。

【日本語メッセージだけに加えられた箇所】

 今回の囲み会見により、大谷選手は結婚報告というプライベートな部分にけじめをつけられたと考えているだろうし、ここからは野球に集中し、新天地ドジャースで心機一転、念願のワールドシリーズ制覇に全身全霊を傾けたいはずだ。

 もちろん今回の会見を機に、現場取材を続ける日米メディアがこれ以上大谷選手の私生活を追いかけ回すことはないと信じている。特に米メディアは選手の公私の部分を明確に分け取材に臨んでいるからこそ、選手たちは気兼ねなくスプリングトレーニングやシーズン中の球場に家族たちを同伴できるのだ。

 ただいくつかのメディアが報じているように、今回結婚報告をSNS上で行った際日本語と英語のメッセージを公開しているが、2つのメッセージの内容は多少異なっており、日本語のメッセージだけ以下の箇所が加えられている。

 「今後も両親族を含め無許可の取材等はお控えいただきますようよろしくお願い申し上げます」

 残念ながら昨夜のTV局報道をチェックする限り、この重要な箇所を紹介している番組はほとんどなかったように思う。個人的には大谷選手がメディアに向け最も伝えたかった箇所だと思うのだが…。

 スポーツ界史上最高額の大型契約を結んだ時点で、大谷選手は今後しばらく衆人環視の中で生きていかねばならない、せめてプライベートだけは平穏な生活を過ごしてほしいと切に願うだけだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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