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来季は打者のみの出場でも大谷翔平が2年連続MVPを狙える確かな根拠

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズンを重ねるごとに進化を続けている“打者”大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【3年連続で最優秀DH賞を獲得した大谷選手】

 今オフのFA市場で最大の注目を集めながらも、大谷翔平選手の契約交渉の進捗状況がまったく表に出てこない日々が続いている。球界屈指の敏腕記者たちでさえまったく情報を掴めておらず、筆者も連日の推測報道にやや食傷気味になり始めている。

 そんな中、大谷選手が3年連続で最優秀DH賞(通称「エドガー・マルティネス賞」)に輝いたことが発表された。すでにMLBで史上初めて2度目の満票でMVPを獲得していることを考えれば、今回の受賞は順当といえるだろう。

 ただ2022年からユニバーサルDH制が採用され、同賞の候補選手が増える中での2年連続受賞は、2003~2007年まで5年連続受賞を果たしているデビッド・オルティス選手とは、また違った重みがあるように思う。

 いずれにせよ、大谷選手が現時点でMLB最強のDHであることは間違いないところだ。

【昨シーズン打者だけでもMVP受賞が可能だった?】

 すでにご承知のように、大谷選手は今年9月に2度目の右ヒジ靱帯の修復手術を受けたため、来シーズンは打者のみでの出場を余儀なくされている。

 二刀流として異次元の活躍を披露し、過去3年間は2021年と2023年にMVPに輝き、2022年もアーロン・ジャッジ選手にMVPは譲ったものの記者投票2位にランク。米メディアの中には「他の選手がMVPを狙えるのは、(大谷選手が打者のみで出場する)来シーズンが最後のチャンスになるだろう」と揶揄する記者もいるほどだ。

 そんな米メディアに指摘しておきたいのだが、実は昨シーズンの大谷選手は、打者だけでも間違いなくMVP有力候補に入っていたと考えられるのだ。

 自身初の本塁打王という個人タイトルを獲得できたのは大きなファクターだが、それだけに止まらず別の指標でもMLB、もしくはア・リーグのトップに立っているからだ。

 その1つがWARだ。本欄でも度々紹介している指標だが、現在では選手を評価する上で欠かせないものになっている。

 MLBのデータ専門サイトの「Fan Graphs」によれば、昨シーズンの大谷選手のWARは9.0でMLBトップだったが、これは打者のWAR(6.6)と投手のWAR(2.4)を合算したもので、二刀流ならではの結果といえる。

 ただ打者単独の6.6を見ると、MLB全体では5位に止まっているように見えるが、上位4人はすべてナ・リーグの選手なので、実はア・リーグでは堂々単独1位なのだ。

 つまりア・リーグでは、打者単体でもリーグトップの活躍度を示していたわけだ。

【OPS+でも初めてMLB1位に輝いていた大谷選手】

 もう1つの指標がOPS+だ。

 これも以前から本欄で指摘しているように、昨今MLBで打者を評価する上でOPS(出塁率と長打率を足したもの)を指標にするようになっているが、OPS+とはMLB平均を100として数値化しもので、OPSという視点から他選手と比較するのに役立つ指標だ。

 つまりこの数値が高ければ高いほど、より突出した成績を残していることを意味し、MLB全体での貢献度を明確に確認することができるわけだ。

 ちなみに11月16日に両リーグのMVPが発表された2日後に、MLB公式サイトで全MVP受賞選手をランキング化した記事が公開されているが、この記事の執筆者であるウィル・ライチ記者は、それぞれの選手の活躍度を比較検討する上でOPS+とERA+(OPS+同様にMLB平均を100として防御率を数値化したもの)を重用している。

 そしてランキング上位に入っている選手たちは、そのほとんどがOPS+もしくはERA+が200を超えているのが確認できる。

 そのOPS+においても、昨シーズンの大谷選手は184を記録し、MLBトップに輝いているのだ。ちなみに大谷選手がOPS+でMLB1位になったのは今回が初めてだ(ちなみにOPSも1.066でMLB1位にランクしている)。

 改めて昨シーズンの大谷選手が、打者単体でも顕著な活躍をしていたことが理解できるし、打者だけでも十分にMVP有力候補に入っていたと考えられる。

【今も進化を続けている大谷選手の打撃】

 つまり来シーズン打者だけの出場に止まったとしても、大谷選手は十分にMVPを狙える能力を有しているということだ。しかも彼の打撃は、今もシーズンを重ねるごとに進化し続けているのだ。

 以下に掲載した図を見てほしい。過去3年間のコース別打率と長打率をチャート化したものだ(資料元:MLB公式サイト「savant」)。

 如何だろう。2021年はストライクゾーン内でも得手不得手があったが、2022年になると外角以外のストライクゾーンは確実に捉えられるようになり、2023年はさらに進化を遂げ、ストライクゾーンの打ち損じはほぼなくなり、しかも高めのボール球もしっかり捉えられるようになっている。

 こうした進化は、大谷選手がしっかり課題を持ちながら打撃に取り組んでいる証だといっていい。さらに来シーズンに低めのボール球を打開できるようになれば、大谷選手の打撃は手がつけられなくなってしまうのではないか。

 昨シーズンは自身初の打率3割超えを達成しているが、来シーズンさらに打率が上がっていくことになれば、三冠王獲得も決して夢物語ではないような気がする。

 来シーズンは二刀流を見ることができないが、打者のみでも多くのファンを魅了してくれるはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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