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FAとして最初で最後の契約になりそうな大谷翔平の安住の地になり得るチームとは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今オフがFAとして最初で最後の契約交渉になりそうな大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【FAとして最初で最後の契約交渉になりそうな大谷選手】

 オフシーズンに突入して以降、米国ではMLB公式サイトを含め大谷翔平選手関連のニュースを見ない日がない状況が続いている。

 今更説明する必要もないが、大谷選手が今オフFA市場最大の注目選手に他ならないからだ。米メディアが大谷選手獲得争いを「Sweepstakes(宝くじ)」と形容するように、チームの将来を大きく左右するような存在だということだ。

 さらにほぼすべての米メディアが大谷選手の契約はMLB史上初の5億ドル以上だと予想している通り、平均年俸額が4000万ドルを超えたとしても10年前後の長期大型契約になると考えられている。

 それはつまり40歳前後まで契約が保証される契約を結ぶかを交渉しているということであり、今回の契約交渉が大谷選手にとってFA選手として最初で最後になる可能性が高いということだ。

 自身のMLB人生を終えるかもしれないチームを探すことになるわけだから、必然的にチーム選びは慎重にならざるを得ないだろう。

【米メディアの大谷選手獲得予想チームに感じる違和感】

 そうした状況下で、これまで米メディアは大谷選手という宝くじに当籤しそうなチームを予想し続けているわけだが、個人的にそうした報道に多少の違和感を覚えている。

 前述したように、FA選手が長期大型契約を結ぶ際に、途中でチームを離れることを想定しながらサインする選手はいないだろう。チームの将来的プラン、ビジョンに納得し、そのチームで契約を全うしたいと考えて契約を結ぶはずだ。

 だが米メディアが予想しているチームの中には、大谷選手のために用意されるであろう10年前後の長期契約を、球団経営的な視点から契約を最後まで履行できるか不安なチームが含まれているように思えるからだ。

 例えば、小規模マーケットのパドレスはこれまで球界内で疑問の声が挙がるほどの異次元補強を続けるとともに、米メディアの間では今シーズン途中まで大谷選手を獲得しそうな有力候補の1つだと目されてきた。

 ところがつい先日、シーズン終盤に選手のサラリー支払いを含め資金ショートに陥り、第三者機関から借り受けしていたことが明らかになった途端、今オフのパドレスは年俸総額の削減に動き、来シーズン終了後にFAになるフアン・ソト選手をトレードに出すとの報道にシフトし、すでに大谷選手の獲得有力チームから外されている状況にある。

 これまでの様々な事例が証明しているように、中小規模マーケットのチームが破格の長期大型契約で選手を迎え入れても、常にハッピーエンドが待っているわけではないのだ。

【マーケット規模で明らかに差が生じるチーム収益】

 そこで別表をチェックしてほしい。

 米ディアが大谷選手を獲得できると予想しているドジャース、ジャイアンツ、メッツ、ヤンキース、マリナーズ、レンジャーズ、カブスに加え、大谷選手との再契約を望むエンジェルスを加えた8チームの2018~2022年のシーズン別収益(資料元「statista」)と、現時点での2024年シーズンの年俸総額(資料元「spotrac」)、年俸3000万ドル以上の高額選手数を比較したものだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 過去5年間(コロナ禍で短縮シーズンだった2020年はあまり参考にならないが…)の8チームの収益を比較してもらえば明らかなように、大規模マーケットのヤンキース、ドジャース、ジャイアンツ、カブスと、中小規模マーケットのメッツ、レンジャーズ、マリナーズ、エンジェルスには大きな差がある。

 現在MLB最強の資産家として昨オフは私財を投じMLB史上初の年俸総額3億ドルを超える大型補強を断行したメッツのスティーブ・コーヘン・オーナーは別として、今回のパドレスの例で明らかなように、中小規模マーケットのチームが3億ドル台の収益で2億ドル台の年俸総額を長期的に維持するのは簡単ではないのだ。

 大規模マーケットのチーム並みに年俸総額を引き上げることを忌避し続けたエンジェルスは、ここ数年マイク・トラウト選手、アンソニー・レンドン選手、アルバート・プホルス選手、大谷選手ら年俸3000万ドル以上の選手を常に複数抱えていたため、大胆な選手補強に乗り出せなかったわけだ。

【中小規模マーケットのチームが長期大型契約を結ぶリスク】

 つまりそれは小中規模マーケットのレンジャーズが、現在のような2億ドル台の年俸総額をどこまで維持できるのか、疑問の余地が残るということだ。

 現時点で年俸3000万ドル以上の選手を3人抱えている中で、さらにそれを上回りそうな大谷選手を10年前後にわたり保持することは果たして可能なのだろうか。

 また現在8チームの中では比較的年俸総額に余裕のあるマリナーズにしても、大谷選手と長期大型契約を結ぶことになれば、その時点で年俸総額は相当に圧迫される。

 その上で毎年優勝争いを目指していけば、パドレスやレンジャーズのように大型補強を続けていくことになり、やはりマリナーズも球団経営上で限界を迎える不安がつきまとうことになる。

 かつてレンジャーズは、当時の史上最高額(10年総額2億5200万ドル)でアレックス・ロドリゲス選手の獲得に成功したが、わずか3シーズンでヤンキースにトレードに出しているし、またマリナーズも2013年オフにロビンソン・カノ選手と当時としては破格の10年総額2億4000万ドルで契約したが、5シーズンでメッツに放出している。

 さらに追記しておくと、マーリンズも2014年にジャンカルロ・スタントン選手と当時の史上最高額となる13年総額3億2500万ドルで契約延長したが、契約延長後3シーズンを終えた時点でチームは再建策に着手し、スタントン選手はヤンキースにトレードされている。

 以上のように、中小規模マーケットのチームが長期高額契約を結ぶということは、時として球団経営に支障を来す可能性があるということだ。

【ドジャース編成担当責任者が自負するチームの将来像】

 そうした状況を踏まえると、現時点で年俸総額に余裕があり、なおかつ長期的に年俸4000万ドル以上を支払える能力があるチームは、ドジャースとジャイアンツに絞られてくるような気がする。

 MLB随一のヤンキースはすでに年俸総額がかなり高い上、大谷選手とDHでバッティングしてしまうスタントン選手との契約が2027年まで残っていることがネックになると考えている。

 先日ドジャース専門ニュースサイト「Dodgers Nation」の単独インタビューに応じたアンドリュー・フリードマン編成担当球団社長は、以下のような発言を行っている。

 「オオタニがこの3年間で成し遂げたことは他のスポーツと比較して、他の選手に先駆けて(契約総額の)天井を打ち破る機会を有していると思う。それは同時に球界全体の成長に繋がるものだ。

 我々は財政的にいい状態にあるだけでなく、経営陣が常に『チームが勝てることを何でもしろ』というスタイルを示してくれている。

 オオタニに限ったことではなく、FA選手なら誰でも勝つことを第一に考えているはずだ。そしてチームのこれまでの状況と今後に目を向けるだろう。我々は頑強なファームシステムを有し、財政的フレキシビリティーもある。今後5~10年はいい状態を継続できると考えている」

 やはり米メディアが一番人気と予想しているだけあって、ドジャースは大谷選手が求める条件をほぼすべてクリアしているように見える。

 果たして大谷選手はどのチームを選ぶことになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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