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佐々木麟太郎にとって米大学留学はNPB入りよりも理想的?!今こそ知ってほしい米大学野球事情

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
バンダービルト大の野球専用施設の内部(同校公式サイトより抜粋)

【今後の進路に注目が集まる佐々木麟太郎選手】

 2023年プロ志望届の締め切りが10月12日に迫る中、今も今後の進路について明らかにしていないのが、超高校級スラッガーとして注目を集めてきた花巻東高の佐々木麟太郎選手だ。

 つい最近スポーツ紙が報じたところによれば、佐々木選手は選択肢をNPB入りか米大学留学のいずれかに絞り込んでいるという。

 また別の報道でも、佐々木投手は大学の施設などを視察するため渡米したと報じており、米大学留学はかなり信憑性が高い選択肢になっているようだ。

 仮に佐々木選手が米大学留学を選んだ場合、MLB入りではないもののドラフト上位指名候補選手が国内ではなく米国に流出するということで、多少のハレーションが起こることが予想される。

【米大学留学はNPBよりもMLB入りする近道に?】

 それでは報道されていることが真実とするならば、佐々木選手にとってNPB入り、米大学留学のどちらが正しい選択と考えられるのだろうか。

 簡単にいえば、佐々木選手が将来的に何を目指しているのかで、その答えは違ってくるだろう。ただ彼が花巻東高の先輩たち(菊池雄星投手と大谷翔平選手)と同様に最終的にMLBを目指すということであれば、米大学留学の方がより理想的だといわざるを得ない。

 というのもNPB入りしてしまうと、所属チームからポスティングシステムによるMLB挑戦が容認されるには、MLBの国際選手規定により最低でも25歳までNPBに留まるしかない(25歳未満まではアマチュア選手扱いになるため所属チームに移籍料がほとんど入らないため)。

 ところが米大学留学ならば、2年制のコミュニティカレッジに進学すれば1年ごとにドラフト指名を受けられるし、4年制大学に入学しても3年間在学、もしくは21歳以上になればドラフト指名を受けることができる。それは留学生にも適用されるものだ。

 例えば今年7月に実施されたドラフトで、オレゴン大に在籍していた東北高出身の西田陸浮選手がホワイトソックスからドラフト指名(11巡目)されたことを記憶されている方も多いのではないだろうか。

【佐々木選手は大学野球界の八村選手のような存在に】

 実は米大学留学は理想的だとする理由は、単にNPBよりも短期間でMLBに辿り着けるからというだけではない。大学レベルからMLBにも負けない素晴らしい環境で、最先端の米国流野球に触れることができるからだ。

 報道によると、佐々木選手は大学野球では名門校の1つであるバンダービルト大を視察しているようだが、仮に佐々木選手がバンダービルト大に直接留学できるのならば、NPB以上の環境で野球に集中することができるようになる。

 前述の西田選手は、オレゴン大学に編入する前にまずコミュニティカレッジに入学しているが、4年制大学とコミュニティカレッジでは環境面に相当の差がある。

 バスケの世界で説明すると、西田選手はプレップスクールを経て4年制大学のスカラシップを勝ちとり、卒業後はドラフト指名を受けられずトライアウトからNBA入りした渡邉雄太選手であり、佐々木選手は高校卒業と同時に名門ゴンザガ大からスカラシップを受け、3年後にドラフト1巡目指名された八村塁選手のような存在になろうとしている。

 それほど佐々木選手が直接バンダービルト大のような名門校に留学できたのなら、これまで米国留学を選択してきた日本人選手とはかなり違った待遇を受けられることになるだろう。

【NPB以上に充実する強豪大学の野球専用施設】

 佐々木選手が視察に赴いたとされるバンダービルト大は前述した通り、大学野球では米国屈指の名門校で、2003年にティム・コービン氏がHCに就任して以降、2004年から2023年まででNCAAトーナメント(全米大学選手権)に出場できなかったのは2005年のみ。しかも2014年と2019年に全米制覇を果たしている。

 MLB選手も数多く輩出しており、中でもデビッド・プライス投手がつとに有名だが、それ以外でも現在現役で活躍中のソニー・グレイ投手(ツインズ)、ウォーカー・ビューラー投手(ドジャース)、ダンズビー・スワンソン選手(カブス)、トニー・ケンプ選手(アスレチックス)らも同校出身者だ。

 またプライス投手の250万ドルの寄付もあり、2018年に総工費1300万ドルを投じて野球専用施設を大改装しており、MLBにも負けないような充実した装備を調えている。

 ちなみに施設をはじめとするスポーツの裏側についてレポートしている「Sports Dissected by COISKI」が同校の野球専用施設を紹介する動画(日本語字幕付き)をYouTube上で公開しているので、興味のある方はぜひ確認してほしい。その充実ぶりに驚かされることだろう。

 ちなみにバンダービルト大はナイキやウィルソンなどとも業務提携しているので、所属選手たちは同校仕様にカスタマイズされたスパイク、グローブ、バットなどの野球用具を無料で受け取ることもできる。

【かつてないほど選手育成が目覚ましい大学野球】

 さらに理解してほしいのは、バンダービルト大だけが特別なわけではなく、強豪といわれる4年制大学はほぼ似たような野球専用施設を揃えているということだ。

 つまり現在の大学野球は、かつてないほどに選手育成面で進化を遂げているのだ。

 それを裏づけるかのように今シーズンのエンジェルスでは、選手層が薄かったというチーム事情があるものの、昨年ドラフト指名されたザック・ネト選手とベン・ジョイス投手が、さらに今年7月にドラフト指名されたばかりのノーラン・シャヌエル選手がメジャー初昇格を果たしている。

 まだ5~6ヶ月のプロ仕様のシーズンを経験していないこともあり、ネト選手とジョイス投手は負傷離脱を余儀なくされているが、3選手とも主力クラスの活躍をみせており、メジャーで通用するレベルにあることを証明している。

 そしてネト選手はキャンベル大、ジョイス投手はテネシー大、シャヌエル選手はフロリダ・アトランティック大の4年制大学に進学し、21歳でドラフト上位指名されている。

 如何だろう。佐々木選手の最終目標がMLBであるとするならば、どう考えてもNPB入りするよりも米大学留学の方が理想的な選択ではないだろうか。

 最終的に佐々木選手がどんな道を選択するのかはもうすぐ判明することになるが、彼の決断次第ではMLBを志す日本のトップアマチュア選手たちに新たな選択肢をもたらすことになるかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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