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ベテラン6選手をウェーバー公示したエンジェルスを番記者が「ばかばかしい」と酷評するワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
エンジェルス移籍後1ヶ月でウェーバー公示されたルーカス・ジオリト投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【エンジェルスがベテラン5選手をウェーバー公示】

 すでに各所で報じられているように、米主要メディアは現地時間8月29日、エンジェルスがベテラン5選手をウェーバー公示したと報じた。

 今回ウェーバーにかけられたのは、ルーカス・ジオリト投手、マット・ムーア投手、レイナルド・ロペス投手、ハンター・レンフロー選手、ランダル・グリチック選手の5人だ。

 さらに別報道によれば、ドミニク・リオン投手も同じくウェーバー公示されたとしており、一気に計6人のベテラン選手たちが放出目的のウェーバーにかけられたことになる。

 今後の動きについて簡単に説明しておくと、公示期間中に上記6選手に対し他チームが手を挙げれば、自動的にそのチームへの移籍が決まり、誰も手を挙げなければエンジェルスに残留することになる。

 ただ今回公示された選手たちは、いずれもポストシーズン(PS)争いをしているチームにとって貴重な戦力になれる実力者なので、移籍する可能性が高いと予想されている。

 逆に言えば、エンジェルスは貴重な戦力を放出覚悟でウェーバー公示したということは、自らPS争いから撤退したことを宣言したに等しいわけだ。

【積極補強の末エンジェルスは得たものはゼロ】

 今回のエンジェルスの措置について、チーム番記者の1人である「The Athletic」のサム・ブラム記者は「a pretty ridiculous move(相当に馬鹿げている動き)」と酷評している。

 それはブラム記者ではなく、多くの米メディアが抱いている感情ではないだろうか。順を追って説明していきたい。

 まず今回ウェーバー公示された6選手のうちジオリト投手、ロペス投手、グリチック選手、リオン投手の4人は、トレード期限前に緊急補強した選手たちだ。彼らを獲得する代償として、若手有望選手3人(エンジェルスの若手有望選手ランキングで2位、3位、8位の投手)を放出している。

 にもかかわらず獲得してから1ヶ月余りで、彼らを放出しようとしているのだ。結局肝心のPS進出を逃した挙げ句、若手有能選手たちまで失っている。つまり今回のトレードでエンジェルスが得たものは、何一つ無いのだ。

 あまりに見事な“朝令暮改”ぶりを、米メディアが嘆くのも仕方がないだろう。

【残りシーズンのサラリー減額が目的か】

 しかも今回のウェーバー公示には、ちょっとしたチーム内の裏事情が付随しているようだ。

 第一報を報じたESPNのジェフ・パッサン記者がX(旧Twitter)上で、「エンジェルスにとって単なるサラリー整理だ」と解説しているように、この時期にウェーバー公示したところで、エンジェルスが得られるメリットは、選手たちが移籍することで残りシーズンのサラリー支払いが免除されることくらいしかない。

 ちなみに5選手すべてが移籍することになっても、残り1ヶ月分の支払いが免除されるだけなので、減額できるのは700万ドル程度でしかない。かなりけち臭い話に聞こえるだろう。

【ぜいたく税の限度額内に引き戻したいチームの意図】

 ただサラリー減額以上に重要だと考えられるのが、ぜいたく税に関するものだ。同じくESPNのカイリー・マクダニエル記者がX上に、興味深い投稿をしている。

 マクダニエル記者によると、ウェーバー公示された5選手が移籍することになると、シーズン中の度重なる補強でぜいたく税の限度額を超えてしまった年俸総額を、限度枠内に引き戻すことができるというのだ。

 さらに限度枠内に戻ることによって、今オフに大谷翔平選手がFA移籍した場合、エンジェルスが間違いなく彼に提示するクォリファイングオファー規則に則り、チームに与えられるドラフト指名権の順位が4巡目終わりから2巡目終わりに変更されることに繋がっているのだ。

 エンジェルスにとっては重要なことなのであろうが、残念ながら強豪チームがとるような動きだとは到底思えない。

 つい先日本欄で、今シーズンのエンジェルスは相当に無理を重ねたことが、現在の低迷に繋がっているのではと指摘する記事を公開させてもらっているが、彼らは最後までファンを失望させたいようだ。

 もちろん大谷選手の去就にも、大きな影響を及ぼすことになるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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