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サービスタイムが46日間足りなかったことでデビッド・フレッチャーが受け入れるしかなかった悪夢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
マイナー降格に続き40人枠からも外されたデビッド・フレッチャー選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンジェルスは現地時間の4月16日、同14日付けでマイナー降格を通達していたデビッド・フレッチャー選手を40人枠から外したと発表した。

 40人枠から外す場合は対象選手をウェーバーにかけなければならず、今回はウェーバー期間中にフレッチャー選手を獲得したいチームが現れなかったようだ。

 というのも、他チームがフレッチャー選手を獲得する場合、エンジェルスと2021年4月に合意した契約延長を引き継がねばならなくなる。契約は2025年まで残り、その年俸額は最低でも2025年オフのバイアウト(契約解除料)を含めると1400万ドルに上るため、他チームが手を挙げにくい状況にあったためだ。

【サービスタイム4年以上なのになぜDFA無しでマイナー降格?】

 ある程度MLBの契約関連に詳しい人ならば、今回エンジェルスがフレッチャー選手のマイナー降格を発表した際に、単純に疑問を持たれた方がおられたのではないだろうか。自分もその1人だった。

 今シーズン開幕を迎える時点で、フレッチャー選手のサービスタイム(26人枠に入っている期間)は4年111日間で、サービスタイム3年以上の選手が有しているマイナー降格を拒否できる権利を得ていたからだ。いわゆるマイナー降格のオプション権をクリアしている状況にあった。

 本来ならフレッチャー選手のような立場の選手をマイナー降格させるためには、DFA(40人枠から外す措置)を行うしかないところなのだが、実はとんでもない抜け道が存在していたのだ。

 MLBの移籍、契約関連を専門に扱う「MLB TRADE RUMORS」によれば、サービスタイムが3年以上5年未満の選手に関しては、マイナー降格を拒否できる一方で、その際は結んでいる契約をすべて破棄しなければならないという規則があったようだ。

 つまりフレッチャー選手が今回のマイナー降格を拒否していれば、前述の1400万ドルの年俸額をすべて失うことになっていたのだ。もちろん彼としてはマイナー降格を受け入れるしかなかったわけだ。

【あと46日間26人枠に残っていたらまったく違った結果に】

 ちなみにサービスタイムが1年とカウントされるのは172日間なので、あと61日間26人枠に入り続けていれば、サービスタイムが5年に達し、別の結果になっていた。

 そうなればフレッチャー選手はマイナー降格を拒否した場合でも残り契約は保証されていたし、チームとしても彼を26人枠から外すにはDFAをするしか選択肢がなかった。むしろフレッチャー選手としても、DFAされた方が有利に作用していたはずだ。

 というのも、DFAになったとしても残り契約が保証されたままFAになるという道を選べたからだ。その後はエンジェルスを離れて他チームと新たに最低年俸で契約できるようになり、メジャーに残り続けられる可能性が広がっていただろう。

 4月14日にマイナー降格が発表された時点でフレッチャー選手は15日間26人枠に入っていた計算になるので、たった46日間足りなかったことでフレッチャー選手は悪夢の道を選択するしかなかったというわけだ。

 またフレッチャー選手が複数年契約ではなく単年契約だったのなら、やはり違った結果になっていただろう。

【状況によっては契約満了まで飼い殺し状態に】

 念のために断っておくが、40人枠から外れたからといってフレッチャー選手のメジャー再昇格の道が閉ざされた訳ではない。ただ一度外された40人枠に戻るのは決して簡単なことではない。

 まずは下降線を辿っている打撃を復活させることが先決だ。それを成し遂げることができないと、エンジェルスが解雇してくれない限り、契約期間が切れるまでずっとマイナー生活を続けることにもなりかねない。

 ただエンジェルスは契約途中でフレッチャー選手を解雇したとしても、やはり残り契約分は保証しなければならず、チームとして彼を解雇するメリットはないという状況にある。

 この記事をまとめながら、ヤンキースと5年契約を結びながらメジャー登板16試合に止まり、途中から40人枠からも外れマイナー生活で契約を全うした井川慶投手を思い出していた。

 フレッチャー選手も井川投手のように、MLB流の飼い殺し状態に陥ってしまうのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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