Yahoo!ニュース

大谷翔平の発言から紐解くダルビッシュ有が指摘し続けた侍ジャパン選手たちの「気負いすぎ」

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
スプリングトレーニング初の記者会見で例年通りの調整を明かした大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【侍ジャパンの宮崎合宿がスタート】

 いよいよ侍ジャパンの宮崎合宿がスタートし、メディアもさらに熱狂的にWBCについて報じ続けている。

 今回の合宿で最大の注目を集めているのが、MLB組では唯一の参加選手であり、チーム最年長のダルビッシュ有投手ではないだろうか。日本国内で公の場で野球をする姿を披露するのはかなり久しぶりのことであり、多くのファンが彼の勇姿にすっかり魅了されているようだ。

 また栗山英樹監督が期待していたとおり、彼の存在そのものがチームに大きな影響を及ぼしているようで、間違いなくWBC期間は若手投手たちにとって大きな刺激を受けることになりそうだ。

【WBCに向け冷静な発言を続けるダルビッシュ投手】

 そんなダルビッシュ投手だが、今回のWBC出場についてメディアの前でほとんど勇ましい発言をしていない。

 合宿初日を終えた後も、「自分はずっとアメリカが長いので、日本にいると最新の情報がなかなか得られないというのもあるので、しっかり情報共有してお互いに成長していけたらなと…。勝ち負け以外にもそういうことができると思うのでそれはしたいと思います」と、若手選手たちとの交流を重要視している発言をしている。

 それ以前にも侍ジャパンの選手たちに向け、「気負いすぎ」や「もっと楽しんでほしい」というような発言を繰り返しており、メディアが期待しているようなWBC優勝に向けた強い意気込みはなかなか伝わってこない。

 WBC優勝を期待している人たちからすると、ダルビッシュ投手の一連の発言に対しどことなく物足りなさを感じていないだろうか。

【侍ジャパン選手にとって早めの調整は共通認識】

 一方で他の侍ジャパン選手たちは、皆しっかり準備をして宮崎に乗り込んできたことが確認できる。メディアに応じた彼らの発言を確認しても、すべての選手が例年より早めの調整をして、万全の状態でWBCに臨もうとしている。

 例えば、昨シーズン限りで現役引退した杉谷拳士氏のインタビューに応じたDeNAの牧秀悟選手は、「実戦がシーズンより1ヶ月早いということなので、準備は早めにやっているかなという感じです」と話している。

 それは今回に限ったことではなく、これまでWBCに参加してきた侍ジャパン選手たちの共通認識といっていいだろう。

【早めの調整は必要ないと考える大谷選手】

 そんな中宮崎合宿に参加せず、所属チームで始動した大谷翔平選手がスプリングトレーニング初の記者会見の場で、実に興味深い発言をしている。

 この会見を受けた大手メディアの報道を見ていると、WBCに関する大谷選手の発言について「優勝目指して頑張ります」や「特別な大会」、「楽しみにしています」などを使用しているのが目立っている。

 それらは大谷選手の発言であることは間違いないが、その一方でWBCに向けた調整について以下のような発言もしているのだ。

 まず米メディアから「WBCがありシーズンの準備が変わったか」という質問に対する大谷選手の回答は、次の通りだった。

 「例年とは変わっていないですね。スケジュール的にもそんなに大きく早めてはないですし、今まで通りの感じで十分じゃないかなと思うので。それがベストなんじゃないかと思っていますし、今のところ体調もすごく良くきているので、このまま続けて調整したいなと思います」

 さらに日本メディアの「WBCに向けペースを上げてもっていきたくなかったのか」という質問に対する答えは、以下のようなものだった。

 「というよりは、それ(例年通りの調整)が一番ベストかなと。WBCで9回完投しなければいけないということでもないので。球数制限もある中である程度想定されるイニングもあるので。そこをベストに抑えていく中でどの調整が一番いいのかなというところで、今のままでいいんじゃないかなというのがみんなの意見かなと思います」

 ちなみに大谷選手の会見内容に関しては、その全貌を野球専門サイトの「Full-Count」が報じているのでぜひ参照してほしい。

【WBCを控えてもほぼ例年通りの調整を続けるMLB選手】

 これは大谷選手に限ったことではなく、米国代表キャプテンとしてWBCに初出場するマイク・トラウト選手も同様だ。

 彼もメディアのインタビューに応じる度に「例年より多少バットを振っているが、特別な準備はしてない」とか、「他チームの情報はまったく知らない。初対決でもやっていくしかない」と話し、ほぼ例年の通りの調整で、なおかつ何の予備知識も入れずにWBCに臨もうとしている。

 ただ大谷選手が「みんなの意見」と話しているように、今オフの調整についてはエンジェルスを含めて様々な人たちと意見交換した上での決定だということだ。もちろん大谷選手はその決定に納得しているのだろうが、彼の本心がどうなのかまでは確認することはできない。

 だが大谷選手の発言から窺い知れるように、WBCに参加するにしてもMLB選手たちの調整は基本的に何も変わっていない。WBCを主催するMLBもそれを見越した上で、シーズン開幕前の難しい時期だからこそ球数制限などの措置を講じているわけだ。

 改めてダルビッシュ投手が指摘している、侍ジャパン選手たちの「気負いすぎ」の意味が理解できないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事