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MLB若手選手の年俸は上がらないは間違い?もし山本由伸が最初からMLBに在籍していたならば…。

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
山本由伸投手のような選手ならMLBではプロ1年目から高額年俸を得られた?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【球団史上最高額で契約更改した山本由伸投手】

 すでに各所で報じられているように、オリックスを26年ぶりの日本一に導いた立役者の1人である山本由伸投手が12月27日に契約更改交渉に臨み、球団史上最高額となる6億5000万円で契約を更改した。

 2年連続で投手4冠を獲得し、さらに沢村賞及びMVPも2年連続で奪取した24歳右腕投手は、まさに名実ともに日本球界トップに君臨したといえる。

 2016年ドラフトで4位指名ながら、プロ在籍1年目から1軍登板&初勝利を記録するなど、すぐにその才能を発揮。その後もジャベリングやブリッジなど独自のトレーニングを採用しながら毎年のように投球を進化させ、球界屈指の先発投手に成長していった。

 それに合わせるように年俸も毎年上昇を続け、前述通り6億5000万円に到達。まだ契約更改前の田中将大投手次第で、日本人選手の最高額に躍り出る可能性がある。

【MLB関係者の発言から興味を抱いたMLBでの適正年俸】

 ところで山本投手の契約更改に関する一連の報道の中で、あるメディアがMLB関係者の話として「メジャーで(山本投手を)獲得に乗り出す球団は最低でもこの3倍は払うだろう」という発言を引用している。

 この発言の真偽についてこの場で触れるつりはない。ただこの発言から個人的に興味を抱いたのが、もし山本投手が2016年にMLBチームからドラフト指名され、MLBでNPB同様の成績を残し続けていたとしたら、今オフの年俸はどれくらいになっていたのかということだ。

 そこでメディアが報じている山本投手の年俸推移を見ながら(あくまで推定)、彼が最初からMLBに在籍していたとして、どのように年俸が推移していくのかをシミュレーションしてみた。

【山本投手ならMLB1年目から年俸1000万円以上を得ていた?】

 まずMLBファンなら一般常識だと思うが、MLBでは在籍日数3年をクリアし年俸調停権を得られるまで(一部選手は2年目から資格を得られる場合もある)、選手たちの年俸はなかなか上がらない。ちなみに山本選手はプロ2年目が終了したオフに800万円から4000万円に跳ね上がっているが、こうしたケースはMLBでは絶対にあり得ない。

 だからと言って年俸調停前の選手に関して、MLBよりNPBの方が高額年俸を得やすいという考え方は正しくない。メジャーに昇格し活躍できれば、それなりの見返りがあるからだ。

 ドラフト指名選手の年俸はMLBでも統一労働協約(以下、CBA)の対象外なので、チームの考えで年俸を提示することができる。そのためプロ1年目の山本投手の年俸500万円は、MLBでも妥当な額といっていい。ただMLBの場合、これはあくまでマイナー契約なのだ。

 山本投手はプロ1年目の8月に1軍昇格を果たし、5試合に登板しており、その間は1軍の出場登録選手に入っている。これはMLBでいうところの25人枠(現在は26人枠)に入ったということなので、MLBではマイナー選手が25人枠に入った時点でメジャー契約に切り替わり、25人枠入りした日数分だけ最低年俸の日割り分を受け取ることができる。

 ちなみに2017年のMLB最低年俸は53万5000ドルだったので、山本投手が1軍に在籍した1ヶ月分に相当する約8万9000ドルが上乗せされるので、山本投手はMLBならプロ1年目から1000万円を超える年俸を得ていた計算になる。

【MLB在籍だったなら実際の年俸を下回りそうなのは2020年のみ】

 さらにプロ2年目になってくると、もっと差が生じてしまう。

 山本選手のプロ2年目の年俸は800万円だったが、実はこれもMLBと比較して妥当な額だ。一度25人枠に入った選手はCBAによりマイナー契約でも最低年俸が設定されているのだが、2018年は8万8000ドルだったことを考えれば、実際の山本投手の年俸と大差はない。

 だが山本投手は4月には1軍昇格を果たし、そのシーズンはリリーフ投手として54試合に登板。途中登録抹消されたこともあったが負傷によるもので、MLBなら負傷者リストに入り25人枠に残り続けることができるため、山本投手はシーズンのほとんどを25人枠に入っていたと考えられる。そうなる2018年のメジャー最低年俸額は54万5000ドルだったので、山本投手の年俸もほぼ同額になっていたはずだ。

 2019年以降の山本投手は先発投手として1軍に定着しているので、それをMLBに当てはめると、2020年のオフにならないと年俸調停権を得られないため、2019年、2020年はメジャー最低年俸(2019年が55万5000ドル、2020年が56万3000ドル)の契約だったと考えられる。

 実際の山本投手の年俸は、2019年が4000万円、2020年が9000万円だったので、山本投手が最初からMLBに在籍してとしても、実際のNPBの年俸を下回るのは2020年のみということになる。

【今オフの山本投手ならMLBでは年俸2000万ドル超え】

 年俸調停権を得てしまえば、MLBでも成績に応じて一気に年俸が跳ね上がってくる。

 例えばドジャースの若きエースであるウォーカー・ビューラー投手は。メジャー在籍3年目の2019年に14勝4敗、防御率3.26、最高勝率のタイトトルを獲得し、そのオフに初めて年俸調停権を得て、最低年俸ラインから一気に375万ドルまで上昇している。

 ただ山本投手は前述通り2020年オフに年俸調停権を獲得する計算になるが、その年は奪三振のタイトルを獲得しながら18試合の登板に終わっているので、年俸調停権を得ていたとしても実際の1億5000万円と大きな差がなかったと考えられる。

 しかし年俸調停権2年目となる2021年オフは投手4冠の他に、MLBでいうところのサイヤング賞&MVPをダブル受賞しているのだから、かなりの高額年俸になっていたのは間違いなく、実際の3億7000万円をはるかに上回っていただろう。

 こちらもドジャース投手の例になってしまうが、クレイトン・カーショー投手は年俸調停権取得前の2011年に投手3冠(最多勝、最終優秀防御率、最多奪三振)を獲得し、そのオフに年俸調停権を得て750万ドルの年俸を獲得している。

 そして山本投手は、年俸調停権最終年となる2022年も同じく投手4冠と沢村賞&MVPを受賞しているのだから、今オフに大谷翔平選手が年俸調停権取得選手として最高額の3000万ドルで契約合意しているように、とんでもない額で単年契約で合意しているか、大型契約で契約延長していたことだろう。

 ちなみに年俸調停権取得選手の中で投手としての最高額は、デビッド・プライス投手の1975万ドルだが、これは2015年オフでの契約だった。現在なら間違いなく2000万ドルを超えるだけでなく、大谷選手に迫るような金額になっていたと考えられる。

 こうした背景を考えると、前述のMLB関係者の発言はむしろ控えめで、MLBならば現在の山本投手に「最低でもこの4倍は払うだろう」と考えてもおかしくないところだ。ただし理解して欲しいのは、あくまで山本投手のような活躍を続けることが条件になってくるということだ。

 来オフの山本投手は、MLBから「海外FA選手」と認識される「25歳以上」と「MLBが認定する海外リーグで最低6年以上在籍」という規定をクリアすることになる。

 今オフのFA市場の活況ぶりを見ていると、来オフに山本投手がオリックスからポスティングシステムによるMLB移籍を認められた場合、平均年俸額3000万ドル前後の交渉になりそうな気がしてならない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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