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自律神経の病気で人生観が変化した川﨑宗則が追求する“NPB復帰を目指さない”独立リーグでの身の置き方

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
プロ22年目のシーズンを迎えた川﨑宗則選手(筆者撮影)

【プロ22年目を迎えた川﨑宗則選手】

 独立リーグのルートインBCリーグが4月9日に開幕したのに伴い、栃木ゴールデンブレーブスに所属する川﨑宗則選手もプロ22年目のシーズンに突入した。

 栃木は9日に茨城アストロプラネッツ、10日に埼玉武蔵ヒートベアーズと対戦し、川﨑選手は両試合とも「7番・DH」で先発出場を果たしている。

 埼玉戦では5回裏に先頭打者で迎えた第2打席で今シーズン初となるレフト前安打を放つと、2死から二塁盗塁も成功させるなど、地元ファンの前で元気溌剌なプレーを披露している。

 昨オフに川﨑選手から話を聞かせてもらい、今シーズンの目標に「10盗塁」を掲げていたが、その言葉通り幸先の良いスタートを切っている。

【41歳を迎える今も独立リーグでプレーし続ける理由】

 「ムネリン」の愛称で親しまれてきた川﨑選手の人気は、今も根強い。それまで縁もゆかりもなかった栃木にやってきて3年目のシーズンを迎えるが、今も川﨑選手のプレーを見るため、多くのファンが球場に詰めかける。

 週末のシーズン開幕戦だったこともあるが、他球場の試合がいずれも3桁の観客数に止まる中、茨城戦で3846人、埼玉戦も1684人のファンを集める盛況ぶりだった(ちなみに茨城戦と埼玉戦は違う球場を使用)。

 そんな川﨑選手も、今年6月で41歳を迎える。すでにNPBやMLBで活躍してきた実績を残し、侍ジャパンのメンバーとして2度のWBC制覇にも貢献した彼が、環境の劣悪な独立リーグでプレーし続ける必要はないはずだ。

 時折彼の元にも、「いい加減引退すれば」という心無い言葉が届いているという。だが川﨑選手は独立リーグに在籍する他選手のように、「NPB入り」や「NPB復帰」を目指しているわけではない。ただただ現役選手としてグラウンドの土にまみれながら、ボールを追いかけ、走り続けたいという純粋な思いが彼の根底にあるからに他ならない。

【川﨑選手が考える「プロ野球選手」としての存在意義】

 現在の川﨑選手は独立リーグに在籍することを、むしろ満喫している感がある。それは彼の中で「プロ野球選手」としての存在意義が、昔とは明らかに変化してしまったからだ。

 NPBやMLBのように、野球をプレーすることで素晴らしい成績を残し高額年俸を得るのがプロ野球選手なのではなく、給料は少なくても自分のプレーでファンを楽しませながら社会人としていろいろな収入を得ることを両立させられる選手も、正真正銘のプロ野球選手だと考えている。

 そんな川﨑選手の考えは、シーズン開幕直前に聞かせてもらった言葉からも理解できる。

 「今年も野球をしながら、途中でいろいろなお仕事も入ってくると思います。その辺での体調管理と自分の気持ちをしっかり落ち着かせていきたいです。

 やっぱり野球というスポーツは危険なスポーツなので、トレーニングをしっかりしないとケガをしてしまうし、ボールが頭に当たれば死んでしまうリスクだってあるわけだから、その辺はしっかり気合いを入れながらやりたいですね。

 お陰様でよく寝られているし体調はいいので、毎年シーズンごとに違った入り方になりますけど、今年なりにシーズンを楽しめそうです」

 昨年もシーズン中に野球解説や講演など、様々な仕事をこなしてきた。むしろNPBやMLB時代よりも忙しい日々を過ごしているし、そうした現在の生活スタイルに充実感さえ抱いている。

 そうした生活スタイルを可能にしているのも、試合数が少ない独立リーグに身を置いているからだ。

【川﨑選手の人生観を変えた自律神経の病気】

 川﨑選手が現在のような心境になったのは、間違いなく2017年に突如として発症した自律神経の病気が影響しているだろう。それまで「元気いっぱい」のイメージしかなかった彼が、約2年間も大好きなグラウンドから離れざるを得なかったのだ。

 グラウンドを離れた2年間は、ある意味川﨑選手にとって“暗部”ともいえるものだろう。だが彼は3月に上梓された最新自叙伝『「あきらめる」から前に進める』で、一時は体重が53キロまで落ちてしまった衝撃的事実を含め、病気と向き合った日々を包み隠さずさらけ出し、これからも一生病気と付き合っていくことを公言している。

 2019年に台湾リーグに参戦し、再びグラウンドに戻ってきてからの川﨑選手は、「メンタル」という言葉を多用するようになった。彼の人生観は病気になる前とは変化し、精神状態の大切さ、メンタルケアの重要性を意識するようになっているのが理解できるだろう。

 実は前述の「よく寝られている」という川﨑選手の言葉は、彼の経験に基づいた奥深いものなのだ。

【「ヘロヘロになってぐっすり眠れることが幸せ」】

 川﨑選手の言葉を聞いていると、彼が独立リーグでプレーを続ける理由は単に彼がグラウンドに立ち続けたいという純粋な思いだけでなく、別の意味も含まれているような気がしてくる。

 それは自分が表舞台に立ち発信し続けることで、野球界だけに止まらず自律神経の病気やメンタルで思い悩んでいる人たちと情報共有していきたいという思いがあるのではないだろうか。

 「NPBやMLBにいた時とはちょっと違うんですけど、野球は人生の一部なんだという生き方が今の自分に合っていると思いますし、生き心地がいいですし幸せな限りですね。

 今はこういう世の中なので、いろいろなことを考えることが多いと思うんだけど、たまには頭を空っぽにするために僕に会いに栃木に来てもらってもいいと思うし、みんなが体調に気をつけて幸せになって欲しいです。本当にそう思います」

 川﨑選手が考える今シーズンの抱負も、まさに精神的な安寧だ。

 「とにかく今シーズンもいろいろな意味で走りたい。肩でゼエゼエ息を切らしながらキツいなというシーズンにしたいですね。とにかくヘロヘロになりたいです。それは野球以外のお仕事でもそうですし、いろいろなことに挑戦したい。

 ヘロヘロになってぐっすり眠れることが僕にとっての幸せなので、それが一番いいと思います」

 今シーズンも様々な分野で活躍する川﨑選手が見られそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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