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ロックアウト後も強固な姿勢を崩さない選手会が抱える構造問題と選手間格差

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
看過できない構造問題を抱えている選手会のトニー・クラーク専務理事(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ロックアウト実施から1週間が経過】

 現地時間の12月2日からMLBがロックアウトを実施し始めて、早くも1週間が経過しようとしている。

 ロックアウト実施に合わせロブ・マンフレッド・コミッショナーはロックアウトに至った経緯とMLB側の立場を説明する一方で、選手会のトニー・クラーク専務理事もメディアに対し、「今後も公平な取引(fair deal)を求めていくことに変わりはない」と強気な姿勢を崩していない。

 またメディアの報道を見る限り、ロックアウト実施以降MLBと選手会が交渉を再開した様子はなく、今後クリスマスシーズンを迎えることを考えると、今後の見通しがまるで見えてこない状況のように思える。

 現状から考えるとロックアウトは長期化する可能性が高く、これまで最長だった1990年に実施されたロックアウトの32日間を上回ることになりそうだ。

【選手会として見過ごせない選手間格差】

 マンフレッド・コミッショナーの現状説明から考えると、MLBは選手会から同意を得るために様々な案を打診してきたが、選手会は頑なに拒否し続けているという構図が浮かび上がってくるだろう。

 だがその一方で逆に選手会の立場からすると、実はMLBの提案だけでは到底解決できないような問題を抱えているのだ。それこそが年々拡大の一途を辿っている選手間格差だ。

 今オフはロックアウト実施前に大物FA選手の契約合意が相次ぎ、マックス・シャーザー投手に至っては、平均年俸額がMLB史上初の4000万ドル(約45億円)を突破する大型契約を得ている。

 こうした一端だけを見れば、選手の年俸は順調に増えているように見えるかもしれないが、実際は選手会として見過ごせない構造問題に直面しているのだ。

 スポーツ専門サイトの『the Score』が11月13日付けで報じた記事によれば、その辺りの事情が鮮明になってくる。

【MLB初昇格年齢は高まり平均在籍日数は短縮傾向に】

 まず以前に本欄で指摘していることだが、年俸額上位125選手の平均額で設定される「クォリファイングオファー」が今年初めて前年を下回っている。それだけ選手全体の年俸上昇率は、すでに頭打ち傾向にあるのだ。

 それを明確に示しているのが、以下のデータになってくる。

 まず選手たちの平均MLB在籍日数が年々減少しているのだ。前述の記事によると、2003年の平均在籍日数は4.79年だったのだが、2019年には3.71年まで下降している。ほぼ1年以上短くなっているのだ。

 つまり最近ではFA資格を得られる在籍日数6年をクリアできる選手は減り続け、今や年俸調停権を得られる選手すらも大幅に減少しているということだ。

 またMLB初昇格の平均年齢を見ると、2001年は24.5歳、2011年は24.6歳とそれほど大きな変化はしていないのだが、今年は25.6歳まで上昇している。

 もちろんMLBに初昇格できる年齢が上がってくれば、それだけMLBに在籍できる期間も短くなってしまう。まさに相関関係にあるわけだ。

【選手層も徐々にベテラン層が排除される傾向に】

 さらに深刻なのは、MLB初昇格が高齢化する一方で、30代選手の占有率が減少していることだ。

 同じく前述の記事によれば、全打者(40人枠の選手なのか実際にMLBの公式戦に出場した選手なのかは不明)における30代以上選手の占有率は、2004年が40.4%だったのに対し、2021年は29.9%まで激減している。

 それを裏づけるように、2019年にMLBの公式戦に出場した全選手のうち63.2%が、年俸調停権取得前の在籍日数3年未満だったというのだ。

【まさに負のスパイラルに迷い込んだ構造問題】

 如何だろう。これらのデータからも明らかなように、大物FA選手たちがとんでもない高額契約を獲得する一方で、多くの選手たちがMLBに定着できず、FA権はおろか年俸調停権すら獲得できないまま球界を去っているのだ。

 これこそが選手全体の年俸上昇率が頭打ちになっている原因であり、選手会が直面している構造問題だ。これを解決できない限り、選手会は前に進むことはできないだろう。

 特に12月1日に失効した前労働協約下では、各チームは年俸総額の上昇を恐れ、有望選手を除き、年俸調停権を獲得した中堅クラスの選手たちをノンテンダーにする傾向が強くなっていた。

 そうした選手たちは改めて再スタートを切らざるを得なくなり、そこから年俸額が大幅に上がることはなかなか期待できないし、多くの選手たちは年俸額が抑えられたまま単年契約でチームを渡り歩くという負のスパイラルに迷い込むことになる。

 これでは新労働協約で最低年俸額を上げていったとしても、中間層の選手たちの環境が改善しない限り、現在の構造問題は続くことになってしまう。この問題を抜本的に解決できるような案が出てこないと、やはり選手会が歩み寄ることはないように思えるのだが…。

 果たしてMLBと選手会の間で、解決の糸口を見出すことはできるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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