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女子代表のスタイルを踏襲するホーバスHC流バスケットのカギを握る日本人ビッグマンの運動量とシュート力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
男子代表でも女子代表のスタイルを踏襲していくトム・ホーバス新HC(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【女子代表のスタイルを踏襲するホーバス新HC】

 東京五輪で女子バスケット日本代表を史上初の銀メダルに導いた後、先月男子代表のHC就任が明らかになったトム・ホーバス新HCが、本格的な代表活動を始動する前にBリーグの視察を行った。

 最初の視察試合となった10月23日のサンロッカーズ渋谷対宇都宮ブレックス戦ではメディアを対象にオンライン会見に応じ、今後の抱負や見通しについて説明した。

 会見の中でホーバス新HCは以下のように説明し、男子代表チームでも女子代表チームのスタイルを踏襲していくことを明らかにしている。

 「僕のバスケットのスタイルは、オリンピック(で見せた)バスケットだから、速いペースで、3Pシュートがもっと増えた方がいいとか、フルコート・プレッシャーとか(音声が乱れて聞き取れず)をもっともっと使っていくバスケットをやっていきたいです。(女子代表のスタイルと)ほぼ一緒です」

【女子バスケット界では革命的な戦術だったホーバス流】

 ホーバス新HCのバスケットスタイルを簡単に表現するならば、コート上にいる5人全員が攻守とともに激しい運動量とスピードでコート中を走り回り、相手を上回る運動量でオープンスペースを創り出し、高確率でシュートを決めていくということになる。

 中でも3Pシュートの使い方が、女子バスケット界では革命的な戦術だったといえる。

 下記の表を見てほしい。FIBAの公式サイトに掲載されている東京五輪に出場した女子代表12チームのスタッツだ。日本代表は大会を通じて米国代表に次ぐ得点能力を誇っていたのだが、中でも3Pシュートの平均試投数、平均成功数、成功率のすべてにおいて、12チーム中ダントツの1位に輝いているのだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 もちろん高田真希選手やオコエ桃仁花選手などのフロントコートの選手たちも他の選手同様に、どんどん3Pシュートを狙い、それを高確率で決めていったことで、相手チームのディフェンスを完全に攪乱させていた。

 それこそが、女子代表が成功した秘訣だった。

【3Pシュート試投数がワースト4位だった男子代表】

 ホーバス新HCが希望しているように、これまでの男子代表は3Pシュートを戦術としてあまり使い切れていなかった。実はホーバス新HCが目指すバスケットは、すでに男子バスケット界では主流になっているのだ。

 同じく下記の表をチェックして欲しい。今度は男子代表12チームのスタッツをまとめたものだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 女子以上に如実に表れているのが、得点能力の高かった上位8チームがすべて決勝トーナメントに進出し、その中でも決勝まで進んだ米国代表とスロベニア代表は、日本の女子代表以上に3Pシュートを多用し、しかも高い成功率を誇っているのが理解できるだろう。

 一方日本代表は、成功率こそ34.5%と極端に悪くはないものの、平均試投数28.0本は12チーム中9位に止まっている。

【注目されるのが日本人ビッグマンの選考】

 ホーバス新HCは現在、初陣となる11月27、28日に仙台で行われるワールドカップ1次予選の中国戦に向け、選考作業を進めているという。

 今も多くの選手たちのプレーをチェックし、Bリーグのコーチたちと話を続けており、「本当に時間がないです」と語る中で、まず20数人を招集し短期間のトライアウトを行ってから、最終的に15人に絞り込んでいく予定だ。

 選手選考にあたっては3Pシュートの成功率を重要視するとした上で、以下のように説明している。

 「今まで勉強(チェック)してきて、1番、2番、3番の選手は良い選手がいっぱいいるので、選ぶのが難しいです。4番、5番はそんなに多くいないので、そこを色々考えています。

 でも3Pシュートだけじゃないので、ペイント・アタックやペイント・フィニッシュというところで、そういう選手を今探しています」

 ホーバス新HCの言葉尻から窺えるのは、現在のBリーグの中で彼のスタイルに合った最適の日本人ビッグマンを見つけるのはなかなか難しいということになるのだろう。

 だが今後ホーバス新HCのスタイルで世界と戦っていくには、激しい運動量と正確なシュート力を兼ね備えた日本人ビッグマンが必要になってくる。

 今後ホーバス新HCの理想に合う日本人ビッグマンを育成することができるのか、Bリーグとの連携がさらに重要になってきそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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