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指揮官が指摘する打球方向以上に気になる後半戦の大谷翔平に見られるライナー打球の減少傾向

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
本塁打王争いでペレス選手の猛追を受ける大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ペレス選手が猛追し始めた本塁打王争い】

 一時は2位以下に5本差をつけ、本塁打王争いで独走態勢を整えつつあったかに思われた大谷翔平選手だったが、ここに来て様相が一変してきている。

 これまでは2位のブラディミール・ゲレロJr.選手との一騎打ちが展開されてきたが、そこに後半戦に入り本塁打を量産しているサルバドール・ペレス選手が割って入り、現地時間の9月5日終了時点でMLB単独2位の41本まで伸ばし、大谷選手に2本差まで肉薄している。

 後半戦に入って大谷選手が47試合で10本塁打に止まっている一方で、ペレス選手は16試合で20本塁打を記録しており、2人の勢いに明らかに差がある。

 本塁打王争いは間違いなくシーズン終盤までもつれることになりそうだが、ペレス選手の勢いは侮れない。

【マドン監督「もっとセンター方向やレフト方向に打つべき」】

 後半戦に入り失速気味の大谷選手だが、ジョー・マドン監督が9月1日のヤンキース戦後に、報道陣に対し現状について以下のように説明している。

 「もう少しセンターからレフト方向に打つ必要があると思う。それが一番の要因であり、最大の調整になるだろう。長いシーズンを通じてずっとパーフェクトでいることはできない。

 シーズン前半戦はもっとセンター方向やレフト方向の打球を打っていた。一度(レフト後方にある)我々のブルペンに本塁打を打ち込んだこともある。あそこまで運べるのは、パワーのある右打者くらいだ。

 また以前のようにそちら方向に打てるようになれば、彼は大丈夫だろう」

【本塁打を量産していた時期も引っ張り中心だった】

 確かに、マドン監督の指摘は正しい。

 MLB関連の様々なデータを提供している『FANGRAPHS』によると、シーズン前半戦の大谷選手の打球方向は、ライト方向43.1%、センター方向31.9%、レフト方向25.0%だったのだが、後半戦に入ると、ライト方向55.3%、センター方向27.7%、レフト方向17.0%と、間違いなく引っ張りの打球が増えている。

 だが指揮官の説明通り、引っ張りの打球が増えたことで本塁打が減少していると論じ切るのはちょっと難しい面がありそうだ。

 以下の表を見てほしい。今シーズンの大谷選手を15試合スパンでデータ化したものだ。紺ラインが本塁打数で、赤ラインがライト方向の打球、黄ラインがセンター方向の打球、そして青ラインがレフト方向の打球を示したものだ(ちなみに今回使用している表はすべてFANGRAPHSによるもの)。

大谷選手の打球方向をデータ化したものだ
大谷選手の打球方向をデータ化したものだ

 この表を見れば明らかだが、本塁打を量産し松井秀喜氏の月間本塁打記録を塗り替えた6月下旬の時期は、明確に引っ張りの打撃中心になっている。その傾向は現在とあまり変わっていないのだ。

【シーズン前半戦と違うライナー打球の少なさ】

 そこで次の表に目を移して欲しい。今度は赤ラインがゴロ打球で、黄ラインがライナー打球、青ラインがフライ打球を示したものだ。

こちらは大谷選手の打球の種類をデータ化したものだ
こちらは大谷選手の打球の種類をデータ化したものだ

 如何だろう。本塁打数が少ない時期は、比較的ゴロ打球が多くなっているのが理解できるはずだ。

 ただ本塁打を量産する前の5月下旬から6月上旬に関しては、ゴロ打球のみならずライナー打球の割合も同程度で推移している。それが現在は、ライナー打球の割合がどんどん減り始めているのだ。

 つまり本塁打を量産する前はフライ打球が少なかったものの、ライナー打球が多かったことでしっかりボールを捕らえている傾向にあったと判断されるが、本塁打が失速し始めた後半戦はゴロ打球ばかりが増えている。

 その一方でライナー打球に関しては、本塁打を量産する前のように増えることはなく、逆にどんどん減少傾向にあるのだ。

 あくまで個人的な意見ではあるが、打球方向よりむしろ打球の種類の方が大谷選手の打撃傾向を確認できないだろうか。

 残念ながら今回のデータから、大谷選手の打撃傾向の原因まで解明することはできない。後半戦に入り相手チームの攻略法が変わったのかもしれないし、前半戦から二刀流でフル回転してきた影響が出ているのかもしれない。

 ただ大谷選手が今後現状を打開できるかどうかを確認する上で、彼のライナー打球が1つの指標になりそうだ。是非参考にしてほしい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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