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今季初黒星を喫した澤村拓一の登板前に事件を起こしたファンがMLB全30球場から永久追放処分に

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ファンと口論になったアレックス・バーデューゴ選手(右端)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【2つの不運が重なった澤村投手の登板】

 すでに日本の主要メディアが報じているように、レッドソックスの澤村拓一投手が現地時間の7月17日に行われたヤンキース戦に登板し、2者連続本塁打を打たれ、今シーズン初黒星を喫した。

 2本塁打されてしまったので言い訳できない投球内容だったとは言え、実は2つの不運に見舞われながらの登板だったのだ。

 その1つが雨だ。この日の試合は雨が降ったり止んだりの状態の中で実施されていたのだが、6回途中から雨が本格的に降り始め、澤村投手が登板に臨んだ6回裏は明らかにザアザア降りだった。

 この日の試合の解説を務めていたジョン・スモルツ氏が、澤村投手の投球を見ながら「スプリットを投げる投手にとって最悪のコンディションだ」と同情の言葉を口にするほどだった。

 1本目の本塁打は速球を打たれたが、2本目の本塁打は落差が少なかったスプリットだった。球速も88マイル(約142キロ)と、澤村投手本来のスプリットではなかった。

 TVカメラが映し出す澤村投手の姿はまさにびしょ濡れ状態で、どう考えても満足な投球ができるような状態にはなかった。

 結局6回終了時点で雨天コールド試合になってしまったので、どれ程雨が降っていたのか簡単に想像がつくはずだ。

【ファンがバーデューゴ選手にボールをぶつける】

 もう1つの不運は、澤村投手の登板直前に起こっていた。投球練習を終え球審からプレーボールがかかる前に、澤村投手がレフト付近で何か揉め事が起こっていることに気づき、審判に知らせる仕草をしている。

 実はレフトのアレックス・バーデューゴ選手がキャッチボールで使用していたボールをレフトスタンドで観戦していたレッドソックス・ファンにプレゼントとして投げ入れたところ、そのボールを偶然キャッチしたヤンキース・ファンがバーデューゴ選手めがけて投げ返し、それが彼にぶつかってしまったのだ。

 これをきっかけにバーデューゴ選手とファンの間で口論が始まり、球場内は一時騒然となった。選手の安全を考慮したアレックス・コーラ監督が選手をベンチに引き揚げさせ、その後審判団と話し合いを行うなどして、結局約6分間の中断が生じてしまった。

 この中断が澤村投手の投球にどこまで影響を及ぼしたのかは定かではないが、彼がスムーズに試合に入れなかったことだけは確かだ。

 コーラ監督が選手を引き揚げさせた際には、前述した通り相当の雨が降っていた。実は審判団と話し合っていたコーラ監督は、このまま一度中断することを申し入れしていたようだが、審判団はそれに同意せず再開を求め、6分間の中断で再開されたらしい。以下がコーラ監督の説明だ。

 「アクシデントが起こった時点でグラウンドの状態は最悪だったし、球場の雰囲気も良くなかった。自分としては場を落ち着かせるためにもあのまま中断して欲しかったが、自分の意見に同意してくれなかった」

 もしコーラ監督の申し入れが受け入れられていたのなら、澤村投手の登板も流れていたかもしれない。いずれにせよ澤村投手にとって不運が重なった登板だったことは間違いないだろう。

【事件を起こしたファンがMLB全30球場から永久追放処分に】

 そしてこのストーリーには、後日談が追加されてしまった。

 『NJ.com』のブレンダン・カティ記者が報じたところによると、バーデューゴ選手にボールをぶつけたヤンキース・ファンは、球団職員によって球場外まで連れて行かれそのまま解放されたらしいのだが、その後ヤンキースが彼に対し、相当厳しい措置を打ち出したのだ。

 翌18日にヤンキースは声明を発表し、ファン、選手の安全を確保することを最優先に考え、アクシデントを起こしたファンをヤンキー・スタジアムからの永久追放処分を発表した。

 またMLBもヤンキースの発表に合わせ、ヤンキース・スタジアム以外のMLB全29球場でも件のファンの永久追放処分を決定したという。

 ヤンキース・ファンがどういうつもりでバーデューゴ選手にボールを投げ返したのかは分からない。だがその代償は余りに大きすぎるものになってしまった。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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