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サンティアゴの処分決定まで2週間以上を要したMLBの対応と滑り止めの不正使用ガイドラインの曖昧さ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
滑り止めの不正使用で10試合の出場停止処分が確定したと報じられたサンティアゴ投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【サンティアゴ投手の出場停止処分が決定】

ESPNが現地時間の7月15日に報じたところによると、MLBがマリナーズのヘクター・サンティアゴ投手の10試合の出場停止処分を支持したようだ。

 この報道はあくまで関係筋の情報を元にしたもので、現時点でMLBからの正式発表はないが、この結果7月16日に再開するシーズン後半戦からサンティアゴ投手は処分を受けることになりそうだ。

 サンティアゴ投手といえば、MLBが6月21日から運用している滑り止めの不正使用の新ガイドラインの適用第1号選手として、同29日にMLBから規定通りに10試合の出場停止処分が発表されていた。

 しかしサンティアゴ投手が処分不服としてアピールしていたため、処分保留のまま今日に至っていた。

【なぜ処分決定まで2週間以上を要したのか?】

 新ガイドラインに関してはその運用が発表された時点から、賛否入り乱れて様々な意見が挙がっていた。またシーズン途中での導入ということで、スムーズに運用できるのかも疑問視されていた。

 そんな中、6月27日のホワイトソックス戦でサンティアゴ投手が適用第1号になり、退場処分とともに10試合の出場停止処分を受けることになったわけだが、サンティアゴ投手のアピールがあったとはいえ、処分決定まで2週間以上を要しているのだ。

 サンティアゴ投手に退場処分を下した審判団は、その場で粘着物質が付着しているとされる彼のグローブを没収しており、MLBはすぐに粘着物質の成分検査ができたはずだ。そこで明確に不正物質が検出されていれば、もっと処分は早く決定できていたのではないだろうか。

 その一方で、アピールしたサンティアゴ投手とスコット・サービス監督は首尾一貫して、使用可能なロジンを使っていただけだと説明し、滑り止めの不正使用を完全否定している。

 やはり我々としては、処分決定に至ったプロセスや決定までなぜ2週間以上を要したのか、MLBから明確な説明が聞きたいところだ。とりあえずは正式発表を待つしかない。

【現場のチェックだけで正確な取締りは不可能?】

 実は今回の新ガイドラインの運用には、現場から警鐘を鳴らす選手がいた。現在女性暴行容疑でMLBから休職扱いになっているトレバー・バウアー投手だ。

 彼はガイドラインが発表された直後に以下のような動画をツイートし、ロジンと汗を混ぜるだけでかなりの粘着性を生み出すことを指摘していた。

 つまりサンティアゴ投手のグローブに付着していた粘着物質も、実はロジンと汗の混合物である可能性があるということだ。それはガイドライン上でも合法になるはずだ。

 今回のガイドラインでは、滑り止めの不正使用を判断するのは、すべて現場の審判団に委ねられている。だがサンティアゴ投手が主張しているように、ロジンと汗で生じた粘着物質がグローブに付着していた場合、それが合法もしくは違法かを見た目だけで確認するのはまず不可能だ。

【今後も運用は曖昧になる可能性も】

 あくまでガイドラインの解釈次第なのだが、もし粘着物質が合法だったとしても故意にグローブに粘着物質を付けていたとしたら、ガイドラインに抵触することになるだろう。

 ただサンティアゴ投手がロジンを使い続けたことで、汗との混合物がボールだけでなくグローブにも付着したとしたら、その判断は難しくなってしまう。

 つまり現場の審判団の判断だけではあまりに曖昧であり、滑り止めの不正使用を厳格に取り締まるのはほぼ不可能なのだ。また現在のガイドライン運用は、審判の負担があまりに大きすぎる。

 現在もロジンが使用され続けており、投手によっては汗との混合により、グローブに粘着物質が付着しているケースも想定されるが、それでもガイドライン適用者は現時点でサンティアゴ投手しか現れていない。それだけ審判も、難しい判断を求められているとも言える。

 シーズン後半戦になればポストシーズン争いが激しくなり、どのチームにとっても今後の試合の勝敗はさらに重みを増してくる。そんな中で滑り止めの不正使用で処分を受ける選手が出てしまえば、処分中の選手の穴埋めができないチームには死活問題になりかねない。

 今後も滑り止めの不正使用で処分対象者は現れるのだろうか。とりあえずその動向を見守っていくしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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