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明らかに崩れ始めた「大谷翔平は左投手が苦手」という幻想

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンは左投手からも好成績を残す大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【4本連続で左投手から本塁打を放った大谷選手】

 エンジェルスの大谷翔平選手が、現地時間の6月16日のアスレチックス戦に「2番DH」で出場し、2回表に迎えた第2打席で左先発のコール・アービン投手から、今シーズン19本目となる本塁打を放った。

 すでに日本の主要メディアが報じているように、今回の本塁打を含め4本連続で左投手から本塁打を放っており、これまで苦手とされてきた左投手を克服したような扱いを受けている。

 確かに今シーズンの大谷選手は、19本塁打の内8本を左投手から放っている。また左右投手別の打撃成績を見ても、基本的に対右投手の成績が対左投手成績を上回っているが、長打率に関しては、対左投手の方が対右投手より優れている。

対右投手:.281/.365/.395/11本塁打

対左投手:.253/.321/.667/8本塁打

 ちなみに上記のデータは、打率/出塁率/長打率/本塁打数を示している。このデータからも、大谷選手が左投手を極端に苦にしていないことが理解できるだろう。

【メディアが作り上げた「左投手が苦手」という幻想】

 実は大谷選手が2018年にエンジェルスに移籍して以降、いつの間にかメディアの間で定着してしまった「大谷選手は左投手が苦手」という評価に疑問を抱いてきた。

 大谷選手自身も以前から、メディアから左投手について質問される度に「苦手意識はないです」と繰り返してきた。16日のアスレチックス戦後も4本連続で左投手から本塁打を放ったことについて聞かれ、改めて以下のように答えている。

 「元々そんな苦手だとは思っていないので、独特の球というか、身長の高い人も多いですし、そういうところで慣れが必要だった部分があったかなと思います」

 大谷選手の言葉を裏づけるかのように、日本ハム時代の大谷選手はむしろ左投手を得意にしていた感さえあるのだ。

【2015年以降は対左投手の方が高打率】

 まずは下記の表をチェックして欲しい。日本ハム時代の大谷選手のシーズンごとの左右投手別打撃成績をまとめたものだ(資料元:『データで楽しむプロ野球』)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 プロ入り2年目までは明らかに対左投手を苦手にしているのが理解できるが、プロ3年目の2015年以降から打率に関しては常に対左投手が対右投手を上回っているのだ。これが左投手を苦手にしている打者の成績であろうはずがない。

 本塁打に関しては、2015年のみしか対左投手が対右投手を上回っていないが、ただ「安打/打数」の項目を見れば明らかなように、左投手の対戦数は右投手よりはるかに少ない。対右投手の本塁打数が対左投手より増えてしまうのは、どうしても仕方がないところだ。

 つまり大谷選手は左投手を苦手にしているのではなく、彼が説明しているように、“慣れ”が必要なだけだったのではないだろうか。

【プホルス選手とのDH併用で左先発との対戦が限定】

 確かにエンジェルス移籍以降の大谷選手が、対左投手の成績が芳しくなかったのは紛れもない事実だ。だがそれもある程度仕方がない部分がある。

 というのも、昨シーズンまでの大谷選手はDHとして起用される場合、アルバート・プホルス選手と併用されてきた。対左投手の成績が良くなかったこともあり、左投手が先発の時はプホルス選手が先発する機会が多くなる傾向が強かった。

 それを物語るように、昨シーズンまでは右投手が先発する試合では163試合に先発していたが、左投手が先発する試合はわずか50試合に止まっていた。それだけ左投手に慣れる機会が限定されていたのだ。

 しかし今シーズンは、開幕から相手先発投手にかかわらずDHとして(または登板時もDH解除で)先発し続け、左投手との対戦が明らかに増えていった。ここまで左投手が先発した試合でも17試合にDHで先発しており、トミージョン手術のためDHに専念した2019年に記録した23試合に、早くも迫ろうとしている。

 最後に面白いデータを紹介しておこう。

 前述通り今シーズンの左右投手別打撃成績は、長打率以外は対右投手が対左投手を上回っているのだが、右投手が先発した試合と左投手が先発した試合の打撃成績を比較すると、ちょっと違った傾向が表れてくるのだ。

右投手先発試合:.258/.343/.574/12本塁打

左投手先発試合:.300/.367/.714/7本塁打

 如何だろう。本塁打以外では明らかに左投手が先発した試合の方が、素晴らしい成績を残しているのだ。

 もう大谷選手に対し、杓子定規に「左投手が苦手」という枕詞を使用するのは止めるべきだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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