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明らかに投手の負担が増すMLBの新ガイドラインは故障者続出のリスクも

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
滑り止めの不正使用に対する新ガイドラインを打ち出したマンフレッド・コミッショナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBが滑り止めの不正使用の新ガイドラインを発表】

 いよいよMLBが球界のタブーにメスを入れることになった。

 すでに米主要メディアが報じていたように、MLBが現地時間の6月15日、公式リリースをサイトに掲載し、滑り止めの不正使用に関する新ガイドラインの詳細を明らかにした。

 このガイドラインは6月21日から施行され、今後は試合中に審判による選手のチェックが徹底され、違反者は即刻退場させられるとともに、自動的に10試合の出場停止処分が科せられることになる。

 リリースによれば、MLBはこの開幕から2ヶ月間、第3機関を使って滑り止めの不正使用について調査してきた結果、現在の不正使用の状況は「過去の例とは大きくかけ離れている」(ロブ・マンフレッド・コミッショナー)とし、野球規則に則り、厳格に対処していく方針を明らかにしている。

【新ガイドラインの主要13項目の中身】

 MLBが公表したリリースでは、今回の新ガイドラインの注目すべき点として13項目を列挙している。そこで本欄でも、読者の方々に新ガイドラインの詳細を理解してもらうべく、そのすべてを紹介しておきたい。

 ・規則が平等かつ安定的に施行されるため、審判は不正使用の疑念がある、ないにかかわらず、試合を通じて両チームの先発投手および、すべてのリリーフ投手をチェックするよう、MLBから指示を受けることになる。

 ・先発投手は最低でも1回以上、またリリーフ投手は交代したイニングの終了時、もしくは交代時に審判のチェックを受けることになる。チェックは基本的に試合の遅延にならないようにイニングの合間に実施される。審判は投手の帽子、グローブや指先など、あらゆるものを調べる権利を有している。

 ・さらに審判が、試合中に特定の選手が滑り止めの不正使用を疑われる行為をしていると判断した場合、いつでもチェックすることができる。

 ・規則に違反し、滑り止めの不正使用が確認された選手は、即座に退場となり、出場停止処分を受ける。この判断はあくまで審判個人に委ねられ、リプレー検証の対象外になる。

 ・滑り止めの不正使用に関する処罰対象者は、投手に限定されない。投手以外の選手がボールに滑り止めを付着させるような行為を行った場合、行為を行った野手と投手が即座に退場となり、出場停止処分を受ける。

 ・捕手も投手同様、定期的にチェックを受けることが義務づけられている。また審判が、他の野手がボールに滑り止めを付着させるような行為を確認した場合、同じくチェックすることができる。ただし野手のグローブやユニフォームに滑り止めを発見したとしても、それが投手を援助するために使用しているものではないと判断されれば、退場処分の対象外となる。

 ・審判のチェック要請に対し、非協力的な態度を取った選手は違反者だと見なされ、即退場&出場停止処分を受ける。

 ・規則に則り、マウンドに備えられたロージンは引き続き使用できるが、それ以外の滑り止めは一切使用が禁止され、携行することもできない。またロージン以上の粘着性を生み出すような、ロージンと別のものを混合する行為も違反となる。さらに投手はナイターや屋根が閉まった球場で登板する場合、日焼け止めクリームの使用も禁止される。各チームは試合前に、審判から使用されるボールとロージンのチェックを受けなければならない。

 ・選手の滑り止めの不正使用を手助けする行為、ボールの回収に従わない行為、不意使用の報告を怠ったことが確認されたチームスタッフは、罰金処分とともに、コミッショナーから職務停止処分を受ける。

 ・選手に対し滑り止めの不正使用を促す行為、また選手の不正使用の仕方をアドバイスする行為などが確認されたチーム職員は、コミッショナーから厳重な処罰を受ける。

 ・監督や選手、チームスタッフに規則遵守の終始徹底を指示していないと判断されたチームやチーム職員も、処罰対象となる。また繰り返し滑り止めの不正使用を続ける選手がいた場合、当該チームはMLBの検査を受けなければならない。

 ・滑り止めの不正使用で出場停止処分を受けた選手に対し、チームは選手の補充をすることができない。

 ・MLBは新ガイドラインの有効性や選手の健康面をモニタリングしながら、将来的にその内容を修正することができる。

【曖昧さを否定できない投手不利なガイドライン】

 如何だろう。とにかくMLBが滑り止めの不正使用に厳しい態度で臨んでいることだけは、すぐに理解できると思う。

 特に違反選手の出場停止処分中に選手の補充ができない点は、チームにとって明らかな死活問題だ。先発投手なら1試合もしくは2試合の欠場で済むが、リリーフ投手となると、10試合分の負担を他のリリーフ投手たちが引き受けることになり、チームはかなり厳しい投手起用を強いられることになるからだ。

 また今回のガイドラインは、明らかに投手ばかりが過去にない負担を強いられるものになっているように思う。

 例えば、これまで滑り止めの不正使用は投手に限ったことではなく、送球が滑らないように野手も使用していたのは、誰もが知っている公然の秘密だ。だが今回のガイドラインでは、投手はロージン以外使用できなくなったのに、野手は引き続き個人的用途なら処分対象にならないのだ。明らかに不公平だろう。

 さらにここ数年は使用される滑り止めが多岐に渡り、ボールの回転率にも影響を及ぼすようになってきたことで問題が表面化しているが、それ以前から日焼け止めクリームなどは、多くの選手たち(もちろん野手も)が使用してきた滑り止め対策だ、それを規則通りに、ロージンだけしか使用を認めないというのは、いろいろな面で投手にリスクを及ぼしかねない。

【グラスノー投手の悲痛な叫び】

 それを裏づけるように、レイズのタイラー・グラスノー投手が右ヒジ内足側副靱帯の部分断裂を明らかにした際、その原因は日焼け止めクリームの使用を止めたことだと説明している。

 これまでグラスノー投手はロージンと日焼け止めクリームを併用してきたらしいが、ここ数試合日焼け止めクリームの使用を止めたところ、ボールの握りに違和感が出始め、右ヒジが張るようになったという。そこで精密検査を受けたところ、靱帯の部分断裂が見つかってしまったわけだ。

 実はグラスノー投手だけでなく、ここ最近は多くの投手たちが従来の滑り止めの使用を止めるようになっているようだ。

 ESPNのバスター・オルニー記者がポッドキャストで明らかにしたところでは、滑り止めの不正使用に対してMLBが厳しく対処するという方針が明らかになった6月5日を境にして、リーグ全体の打率、長打率が上昇する一方で、ボールの回転率が明らかに下がっているというのだ。

 「こういったことはオフシーズンにやるべきだ。自分たちとしても対応する時間が必要だ」

 グラスノー投手が不平を漏らすように、シーズン途中でこれまでのやり方をすべて禁止されてしまっては本来の投球ができるはずもないし、投球フォームにも影響を及ぼすことになる。これからもグラスノー投手のように、負傷する投手が続出するリスクも考えられる。

 果たして今回の新ガイドライン作成は、MLB界にとって改善策になるのだろうか。ただ残りシーズンが、多くの投手にとって試練になることだけは間違いなさそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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