Yahoo!ニュース

有原航平にとって朗報?! もはや投手受難の地ではなくなったレンジャーズ本拠地球場

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年はワールドシリーズも実施されたレンジャーズの新しい本拠地球場(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【現時点でMLB在籍確定は8人】

 今オフは4人の日本人選手がMLB挑戦を表明したが、現時点で夢を叶えることができたのは、レンジャーズと合意した有原航平投手のみという状況だ。

 有原投手を含め西川遥輝選手、菅野智之投手の3人はポスティング・システムを利用していたため、30日間の交渉期間が終わりすでに去就が決定しているが、海外FA権を取得して契約交渉を続けている澤村拓一投手の場合、FA市場の過去にない停滞ぶりから考えても、もう少し時間を要することになりそうだ。

 また今オフにFAになった田中将大投手、平野佳寿投手の2人に関しても、まだ新たな所属先が決まっておらず、今シーズンのMLB在籍が確定している日本人選手は8名ということになる。

 いずれにせよ有原投手のMLB挑戦に敬意を表するとともに、今シーズンの活躍に注目したいところだ。

【投手受難と言われ続けたレンジャーズ球場】

 ところで有原投手が入団することになったレンジャーズは、日本人ファンにとって比較的馴染みのあるチームではないだろうか。

 2002年の伊良部秀輝投手を皮切りに、福盛和男投手、大塚晶則投手、建山義紀投手、上原浩治投手、ダルビッシュ有投手、田中賢介選手、藤川球児投手が在籍してきた過去があり、有原投手はダルビッシュ投手が2017年シーズン途中にドジャースへトレードされて以来、4年ぶり9人目の日本人選手ということになる。

 これまでダルビッシュ投手を中心に、数多くのレンジャーズの試合が日本で放送されてきた。そうした試合を観戦してきた方々は、レンジャーズにどんなイメージを抱いているだろうか。

 あくまで個人的な視点だが、多くの人たちがアレックス・ロドリゲス選手やジョシュ・ハミルトン選手やラファエル・パルメイロ選手等々、MLBを代表するスラッガーがレンジャーズで活躍してきた一方で、なかなか球界を代表するような投手が登場してこないというイメージを持っていないだろうか。

 というものもMLBでは長年にわたり、レンジャーズの本拠地球場は投手にとって受難の地だと指摘され続けてきたからだ。

【屋外球場で炎天下の試合は40度以上が当たり前】

 1994年に開業したレンジャーズの本拠地球場は、“ボールパーク時代”の先駆け的存在だった。レンガ造りに似せた外観、右翼だけに設置された、せり出した屋根付き2階観客席等々、各所に古きよき時代の野球場を彷彿させる設計が施されていた。

 1995年にはオールスター戦の会場となり、当時旋風を巻き起こしていた野茂英雄投手が、栄誉ある先発を務めた球場としても知られている。

 だがその一方で、ダラスの夏季は米国でも高温地域ながら四方を壁のように観客席で囲まれたグラウンドは、熱がこもりやすい構造になっていた。夏季になるとナイターでも試合開始時間を過ぎても40度を超えることは度々だ。

 しかもグラウンド上は風通しが悪いこともあり、本塁打が量産される傾向が強いなど、投手にとって過酷な条件が揃っていた。

 後述させてもらうが、データ上からも投手受難の球場だったのは明らかなのだ。

【新球場登場で従来のトレンドが一変】

 ところが有原投手にとって朗報なのが、昨年新たに開業した開閉式の屋根を備えた新球場だ。同球場の登場とともに、従来のトレンドが一変しているのだ。

 別表に注目して欲しい。ESPNが同社サイトで掲載している「スタジアム・ファクター」から、過去5年間にわたるレンジャーズの本拠地球場の推移を比較したものだ。括弧内の数字は、MLB内での順位を示している。

(筆者作成)
(筆者作成)

 スタジアム・ファクターというのを簡単に説明しておくと、ホーム試合のデータとアウェイ試合のデータを比較したもので、「1.000」が中間で、それを上回ると打者有利、下回ると投手有利ということになる。

 例えば得点に関して計算する場合、ホーム試合の得点と失点の合計を試合数で割ったものを、アウェイ試合の得点と失点の合計を試合数で割ったもので割るというものだ。数式にすると、(ホーム試合の得点+失点)÷ホーム試合数/(アウェイ試合の得点+失点)÷アウェイ試合数となる。

 表を見ても明らかなように、2019年までは得点、本塁打、安打ともにMLBトップクラスの打者有利のデータで推移しているが、新球場になった2020年は大幅に軽減され、本塁打に関してはむしろ投手有利にシフトしているのだ。

 前球場以上に投手が投げやすい球場になっているのは明らかだ。

【有原投手にとって様々な快適環境が揃う】

 またMLB関係者から聞いたところでは、新球場のクラブハウスやジム、トレーナー室など選手が使用する施設もMLBトップクラスの設備が整っているということで、コンディショニング維持の面でも最適の環境が揃っているようだ。

 さらに球場以外でも、トヨタが2017年に北米本拠地をダラス郊外に移転したのを機に、日本人コミュニティが拡大の一途を辿っており、日本人にとって住環境もニューヨークやロサンゼルス並みに充実している。

 有原投手のレンジャーズ入りは、まさにスマートな選択だったといえそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事