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西川遥輝と金河成の差とは?現在のMLBから求められる打者の理想像

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ポスティング・システムを利用しパドレスと4年契約を結んだ金河成選手(写真:ロイター/アフロ)

【西川選手だけにオファーが届かなかった?】

 今オフにポスティング・システムを利用してMLB移籍を目指していた3選手の中で、夢を叶えることができたのは、最終的に有原航平投手だけに終わり、西川遥輝選手と菅野智之投手は2021年シーズンもNPBに残留することになった。

 すでに本欄を始め多くのメディアが指摘しているように、今オフのFA市場が過去にない停滞傾向にあることが、大きな影響を及ぼしてしまったのは明らかだ。

 もし仮に選手側が申請時期を自由に選べ、30日間の交渉期間を調整できていたとしたら、また交渉期間に制限がなく、時間をかけ交渉できたとしたらならば、結果は違っていたかもしれない。

 ただ停滞しているFA市場だけを理由にするのは決して合理的ではない。実際有原投手はレンジャーズ入りを果たし、菅野投手も合意しなかったものの、複数チームからオファーが届いている。

 さらに同じ時期に、KBOからポスティング・システムを利用してMLB移籍を目指していた金河成(キム・ハソン)選手も、パドレスと4年総額2800万ドルの大型契約を結び、見事にMLB入りを果たしている。

 これまでの米メディアの報道をチェックする限り、ポスティング・システムを利用した4選手の中で、西川選手だけがMLBチームから正式オファーが届かなかったということになる。

【西川選手と金選手との差】

 そこで気になるのは、同じ野手としてポスティング・システムを利用してMLB移籍を目指してきた、西川選手と金選手の間にどんな違いがあったのかだ。

 まずは下記の表をチェックして欲しい。両選手のNPBとKBOでの通算成績を比較したものだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 2人のデータを見れば一目瞭然だと思うが、西川選手と金選手の大きな違いは、本塁打数と長打率に他ならない。

 つまり2人の比較から、MLBではアジア人野手に対しても、より長打が期待できる野手に興味が持たれているのではないか、という予測が浮かび上がってくる。

【明確に変化する過去40年間の打撃傾向】

 この予測を検証するため、他のデータも紹介しておこう。

 1980年から20年おきのMLBの打撃傾向を比較したものだ。2020年は言うまでもなく最新のデータであり、2000年はステロイド時代が全盛だった時期、そして1980年はステロイド時代に入る前のものだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 これらのデータで特に注目して欲しい部分は、本塁打率がステロイド時代以上に上昇している一方で、盗塁率は2000年、2020年と確実に減少しているという点だ。

 ステロイド時代の2000年に、打率、長打率、出塁率ともに、すべて最高値を記録しているのは納得できるだろう。ところが2020年は打率が最低にもかかわらず、出塁率では1980年並みで、長打率も2000年同様.400を超えている。

 つまり現在のMLBの潮流は、盗塁をあまり重要視しなくなってきた一方で、少ないチャンスで確実に長打を狙える打者を求めているということになる。

 これを踏まえれば、なぜ金選手だけがMLB入りできたのかも理解できないだろうか。

【今も大砲を外国人選手に頼るNPB】

 改めて現在のNPBの打撃傾向を考えてみたい。

 2020年シーズンは5年ぶりにセ・パともに本塁打王は日本人選手が獲得したものの、現在も外国人選手に長打を期待する傾向が強い。しかも2020年シーズンの本塁打率は0.89と、はるかにMLBを下回っている。

 特にセ・リーグより広い球場を使用しているパ・リーグでは、本塁打率は0.85まで下がる(セ・リーグは0.94)。

 NPBの本塁打率も1980年、2000年と比較してみると、MLBとは反対に1.31→0.97→0.89と減少傾向にあるのだ。新球場への移転が大きな要因だと思うが、明らかに本塁打が期待できなくなっている。

 果たして現在のNPBの環境で、今後MLBで求められるような打者を輩出することができるのだろうか。

 高校野球で本塁打を量産してきた打者たちが、NPB入りした後に学生時代同様の活躍ができていないことからも、根本的な部分を見直すべきだと思うのは自分だけではないはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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