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王貞治をも上回る?! ニグロリーグの公式記録認定で再び脚光を浴びる“黒いベーブ・ルース”の本塁打伝説

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
1972年に殿堂入りしているジョシュ・ギブソン選手(殿堂博物館公式サイトより)

【ニグロリーグがMLBの公式記録に】

 すでに日本でも報じられているように、MLBがニグロリーグの記録を公式記録として認定することを発表した。

 MLBの声明によれば、1920年から1948年まででニグロリーグに所属していた約3400人の選手が残した記録が、MLBの公式記録として認定されることになった。

 ニグロリーグが存在していた当時の米国は、スポーツ界に明白な人種差別が存在しており、1947年にジャッキー・ロビンソン選手が黒人選手として初めてブルックリン・ドジャースと契約するまで、黒人選手はMLBに入れないという不文律が存在していた。

 MLBは現在、人種差別の壁を打ち破ったとして、ジャッキー・ロビンソン選手が使用していた背番号「42」をリーグ全体の永久欠番とし、さらに同選手の功績を称えるため、1日限定で全選手が42番を着用する「ジャッキー・ロビンソン・デー」をMLBの主要イベントとして定着させている。

【不完全なデータベース】

 MLBでは今回公式記録として認定されたニグロリーグのデータベースを公開しているが、実はこのデータはニグロリーグのすべての記録を網羅したものではなく不完全なものとされている。

 というのも当時のニグロリーグは、大半のチームが巡業しながら興行試合を行っており、すべての記録が残っていない。さらにリーグ戦を戦っていたチームにしてもMLBよりシーズンが短く、シーズン後は同様に巡業にでていたため、同じく記録が曖昧だと言われている。

 データベース上の記録は、米国内の新聞に掲載されているボックススコアなどを調べた記録を集めたものに過ぎないのだ。

【通算本塁打数は800~1000本と言われる伝説の選手】

 今回のMLBの決定で、再び注目を集めている選手がいる。“黒いベーブ・ルース”との異名を誇り、ニグロリーグを代表する長距離砲として活躍したジョシュ・ギブソン選手だ。熱狂的なファンの間では、逆にベーブ・ルース選手を“白いジョシュ・ギブソン”と呼ぶほど、ベーブ・ルース選手と双璧をなす選手だった。

 ギブソン選手は35歳の若さで他界してしまったこともありMLBでプレーすることはなかったが、ニグロリーグでの功績が評価され、1972年にニグロリーグ史上2人目の殿堂入りを果たしている。

 データベースによれば、ギブソン選手の通算本塁打数はリーグ最多の238本になっており、こちらが公式記録として登録されることになる。

 だが前述通りデータベースは不完全なもので、ギブソン選手の通算本塁打数ははるかに上回っているというのが常識になっている。今となっては正確な記録を調査するのは不可能だが、今でも「800~1000本」だとの通説が広く認識されている。

 もちろんそれが事実なら“世界の本塁打”である王貞治選手の868本をも上回る可能性があり、ギブソン選手こそ米球界で真の本塁打王ということになる。またそれを信じているファンも少なくない。

【シーズン最高打率は公式記録トップに】

 残念ながらMLBで認定されたギブソン選手の本塁打は238本でしかないが、別部門でMLBの公式記録を塗り替えることになり、彼の打撃の素晴らしさを裏づけている。

 ギブソン選手は1943年シーズンに打率.441を残しており、これは1894年にヒュー・ダフィー選手が記録したシーズン最高打率.440を上回ることになる。

 これを機に、ギブソン選手の本塁打伝説が日本でも注目されることを願いたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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