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田澤問題はまだ終わっていない! 今も残り続ける日米間に横たわる選手処遇不均衡

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
田澤純一投手はレッドソック入りして時点でプロ選手として扱われるべきはずだ(写真:ロイター/アフロ)

【今やオワコンになった感がある田澤問題】

 ソフトバンクの日本シリーズ4連覇達成で、新型コロナウイルスにより異例ずくめだった2020年シーズンが幕を閉じた。これでNPBも本格的なオフシーズンに突入することになった。

 まずは日本ハムからMLB挑戦が容認された有原航平投手、西川遥輝選手に続き、海外FA権を取得している澤村拓一投手、さらに将来的なMLB挑戦をチームに伝えていると言われる巨人の菅野智之投手、ソフトバンクの千賀滉大投手らの動向に注目が集まるところだ。

 そうした人気選手の去就が注目される一方で、NPBで起こった様々な現象を検証し、対処していくのもオフシーズンの重要な活用法だと考えている。その上で田澤問題は、やはり避けて通れないトピックではないだろうか。

 多分世間的には、NPBが「田澤ルール」の撤廃を決め、BC埼玉入りしていた田澤純一投手が今年のドラフト対象選手になり、最終的に指名を受けなかった時点で、この一件はオワコンになっている感がある。

 だがそれは大きな間違いだ。根本的な問題を解決されずに、ただ先送りされただけに過ぎない。

【いつの間にかすり替わってしまった論点】

 そもそも田澤ルールが撤廃された時点で争点になっていたのは、MLB在籍9年の実績を誇り、れっきとした“プロ選手”である34歳の田澤投手が、なぜドラフト指名をうけないとNPB入りできないのか、だったはずだ。この点については上原浩治氏など球界関係者からも、疑問の声が挙がっていた。

 ところがいざドラフト当日を迎え、結果的にドラフト指名を受けなったことが決まると、ネット上で展開された大論争は、「現在の田澤投手がNPBで通用する投手かどうか」に変わっていた。明らかな論点のすり替えだった。

 現在の田澤投手がNPBで活躍できるかを論じるのは、時間の無駄遣いでしかない。結局のところ彼が実際にNPBの公式戦で投げないことには、その答えが出るはずがない。むしろなぜベテランのプロ選手に、その機会が与えられないのかを疑問視するべきだ。

【MLBのドラフトはあくまでアマチュア選手が対象】

 つまり田澤ルールを撤廃しただけは、何の解決にもなっていないということだ。逆にルール撤廃で、今後第2、第3の田澤投手が現れることになるかもしれないのだ。それを想定して、ドラフト制度そのものを見直すべき時が来ているのではなかろうか。

 簡単な話としてMLBが6月に実施しているドラフトは、あくまでその対象は「高校、大学やその他のアマチュアの野球チームに所属している選手」であって、プロ入りした選手は含まれていない。

 端的な例を挙げよう。今年はツインズで前田健太投手とともにチーム最多の6勝を記録したランディ・ドブナック投手は、大学卒業時にドラフト指名を受けることなく、知人のつてを頼り独立リーグ入り。わずか数ヶ月後にプロ選手として、ツインズとマイナー契約を結んでいる。

 このルールに則れば、日本で独立リーグに所属している選手たちがドラフト対象になっていること自体も、違和感を抱いてしまう。

 今年のシーズン途中で、歳内宏明投手が四国アイランドリーグからヤクルト入りしている。彼の場合は元NBP選手としてシーズン途中でもNPB入りできたわけだが、同じグラウンドで戦っている他の選手たちはドラフト指名を待たなければいけないというのは、かなり無理筋としか思えない。

【ソフトバンクのスチュワート投手はNPBルールが適用】

 海外リーグに渡った米国人選手についても考えてみよう。

 昨年5月にソフトバンク入りしたカーター・スチュワート・ジュニア投手は、前年にMLBでドラフト1巡目指名された後、その年もドラフト対象選手でありながら、ドラフト前にNPB入りを選択した選手だ。まさに田澤投手の逆バージョンということになる。

昨年ソフトバンク入りしたスチュワート投手も米国ではNPB支配下のプロ選手として扱われている(筆者撮影)
昨年ソフトバンク入りしたスチュワート投手も米国ではNPB支配下のプロ選手として扱われている(筆者撮影)

 カーター投手のソフトバンク入りが決まったことで、今後の彼の待遇についてMLB機構に確認したところ、NPB入りした時点でNPB支配下選手として扱われるとの回答だった。つまりカーター投手が今後MLB入りするには、NPBで海外FA権を取得するか、ポスティング・システムを利用するか、自由契約されるかの選択肢しかないということだった。

 裏を返せばMLBは、ドラフト指名を受けず海外リーグ入りした選手でも、きちんとプロ選手として認識しているということだ。ならば日米間の選手処遇を均衡にするためにも、NPBもドラフトを経ずに海外リーグ入りした選手に対し、同様の扱いをすべきはずだ。

【25歳以上&6年以上在籍でFA選手扱い】

 さらにMLBには、海外プロ選手との契約でも明確な規定が存在している。

 海外プロリーグに在籍する選手を獲得する場合、年齢が25歳以上で在籍期間が6年以上の選手はプロ選手として認められ、制限なく契約交渉できる一方で、この条件を満たさない選手は「国際アマチュアFA選手」の扱いを受け、契約金に上限を設けられ、しかもマイナー契約しか提示できない。

 2018年にエンジェルス入りした大谷翔平選手がこの規定にかかり、マイナー契約しか結べなかったのは記憶に新しいところだろう。

 この規定をNPBでも適用するのならば、当然のごとく田澤投手は正真正銘のFA選手であり、ドラフトを経ずともどのチームとも契約できているわけだ。

 やはりどう考えてもNPB内での田澤投手の処遇は、疑問しか残らない。繰り返すが、第2、第3の田澤投手が現れる前に、きちんと対応していくべきだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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