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米メディアも戦々恐々? 大量人員削減の可能性もあるMLBが迎える深刻そうなオフシーズン

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
マリナーズのオプション権行使で来季は約15億円の年俸が保証されるゴードン選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ワールドシリーズ終了後に始まるオフシーズン】

 MLBは現在ワールドシリーズが開催中で、異例続きだった2020年シーズンもクライマックスを迎えている。

 新型コロナウイルスの影響で、スプリングトレーニング期間中に活動休止に追い込まれ、その後はMLBと選手会の労使協定が難航したこともあり、最終的に60試合の短縮シーズンでのシーズン実施となった。

 またシーズン開幕当初はマーリンズやカージナルスでチーム内クラスターが発生するアクシデントもあり、シーズン継続が危惧される時期もあったが、ポストシーズンに入り地区シリーズから中立開催に切り替えてからは感染者が出ることもなく、ナ・リーグ優勝決定シリーズとワールドシリーズでは有観客試合を実施できるまでに至っている。

 だがワールドシリーズが盛り上がりをみせる一方で、すでに米メディアの間では目前に控えたオフシーズンの関心が高まっているようだ。

【大幅減収を余儀なくされた各チームの戦略は?】

 というか、ワールドシリーズ出場を逃したドジャースとレイズ以外は、すでに水面下でオフシーズンがスタートしているといっていい。

 今シーズンで契約が終了するベテラン選手に関しては、所属チームがFA取得前に独占的に交渉できるのは、ワールドシリーズ終了後5日以内となっているため、それほど猶予がないからだ。

 ただオフシーズンにGMなどの編成担当者が動き出すためには、年俸総額を含めた来シーズンの予算が決まらないと戦略を立てることもできない。現在はそうした作業がチーム内で行われている状況だ。

 そんな中、米メディアの間では、どのチームも編成担当者が潤沢な予算を得られるのは相当に厳しいだろうとの見方が大半を占めている。

 誰もが知るところだが、レギュラーシーズンは短縮で行われただけでなく、無観客試合での実施を余儀なくされ、すべてのチームが主要な収入源の1つを失い、大幅減収に追い込まれたからだ。特に、毎年のように平均観客動員数が4万人を超えているドジャース、ヤンキース、カージナルスなどの人気チームは、相当な痛手を受けていると言われている。

 現時点で来シーズンの通常開催すら確定していない状況の中、各チームの経営陣がチーム編成に大幅な予算を割けないだろうとのメディアの予測が的外れだとは、誰も思わないだろう。

【注目される契約オプション権を有する選手の処遇】

 予算が削減されれば、その影響を受けるのが選手たちに他ならない。今年のFA市場での契約交渉が停滞するのは必至で、さらにFA以外の選手も整理される可能性が十分に考えられるのだ。

 そうした状況下で迎える今年のオフシーズンを見極める上で、2つの指標があると考えている。時系列的に最初に注目すべきなのが、チーム側が来シーズンの契約オプション権を有している選手の処遇だ。

 選手の移籍情報などを中心に情報提供している「MLB TRADE RUMORS」によれば、今年は計48選手が、来シーズンの契約オプション権を所属チームに委ねているか、双方合意の契約オプション権を有している。ちなみに所属チームは、オプション権を行使するかどうかをワールドシリーズ終了後5日以内に決定しなければならない。

 チームがオプション権を行使する場合は、それぞれの選手に対し、数億円から数十億円の年俸が保証されることになるが、逆にオプション権を破棄すると、チームは契約解除料を支払うだけで済み、選手はFAとなり、新たな所属先を探すことになる。

 もしここで契約オプション権の破棄が続くようなことになれば、やはり各チームの予算が相当に抑えられていると判断できるだろう。

【年俸調停選手が戦力外通告される可能性も】

 次なる指標は、年俸調停の資格を得ている選手たちへの対応だ。

 MLBにもNPBの戦力外通告に相当する「non-tender(契約継続の意思がないことを通達する措置)」というルールがあるのだが、これまでも年俸調停で増額必至の選手との契約を回避し、このルールを適用し選手を整理するチームが毎年存在していた。

 各チームとも、大型長期契約を結んでいる高額選手たちを一方的に契約解除することはできない。もし予算削減をすることが求められれば、その次に高額年俸が必要となりそうな年俸調停対象選手を整理していくしかない。

 となれば、例年以上に戦力外通告を受ける選手が増えてもおかくないということになる。米メディアも少なからず、今年は年俸調停対象選手が大幅に戦力外通告を受けるだろうと予測している。

 ところで日本でも報じられているように、大谷翔平選手もこのオフシーズンに年俸調停1年目の資格を得ることになるが、首脳陣からチームのコア選手として期待されている存在だけに、彼が戦力外通告を受けることはほぼ100%ないと考えていい。

 ちなみに戦力外通告も期限が決まっており、今年は12月2日までに決めなければならない。

 契約オプション権をチームに委ねる選手、そして年俸調停の資格を有する選手。本来なら高額年俸を得るための絶好機なのだが、今年のオフシーズンに関しては逆に障害になる可能性がある。

 とりあえずワールドシリーズ終了後5日間と12月2日に、各チームがどんな動きをするのかに注目して欲しい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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