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サイン見逃しで放った満塁弾が掟破り?! 日本では問題にもならないだろうMLB流の紳士協定

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
フェルナンド・タティスJr.選手が放った満塁弾がMLBの紳士協定を破っていた?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【球界OBから批判を浴びた野手の投手起用】

 8月6日の阪神対巨人戦で、原辰徳監督が大差のついた8回裏途中から野手の増田大輝選手を登板させたことが、大きな論争を巻き起こした。

 多くの球界OBからも今回の起用に、「礼儀を失する」とか「勝負を諦めた」等々批判の声が上がっていた。逆に原監督を擁護するOBもいたのだが、これだけ多くのOBが不快に感じたということは、ある意味野手の投手起用は、球界のタブーだったのかもしれない。

 つまりNPBにも暗黙の了解のようなルール上にない紳士協定、いわゆる“unwritten rule”が存在しているのだろう。

 そんな1つだと思われるのが、打者に死球を与えた投手は、故意でなかったとしても必ず帽子をとって詫びる仕草をすることだ。MLBではそんなことをする習慣は存在しないが、NPBでは礼儀を失した行為だと受け取られてしまう。

【相手の怒りを買ったパドレスの若き主砲の満塁弾】

 また逆も然りだ。NPBでは問題ないようなことが、MLBでは掟破りだと判断される“unwritten rule”が存在している。そんな出来事が、現地時間8月17日に行われたレンジャーズ対パドレス戦で起こった。

 10-3とパドレスがリードして迎えた8回表のパドレス攻撃中のことだった。1死満塁の場面で打席に立つのは、今シーズンここまで絶好調の、パドレスの若き主砲フェルナンド・タティスJr.選手だった。

 カウント3-0から4球目の真ん中低めの速球にバットを合わせると、ライナー性の打球はあっという間に右翼席に突き刺さった。タティスJr.選手にとってこの日2本目となる本塁打で、値千金の満塁弾だった。

 本塁打を放った直後にTV中継は相手ベンチのクリス・ウッダード監督を映し出したのだが、何か不満そうなのは明らかだった。

【次打者に背中を通過する投球で威嚇】

 さらに点差が開いたレンジャーズは投手を交代し、イアン・ジボー投手がマウンドに立ったのだが、次打者のマニー・マチャド選手と対峙し、いきなり初球で彼の背中を通過する球を投じたのだ。明らかな威嚇行為だった。

 中継を担当した解説者は、この行為の理由を以下のように語っている。

 「何が起こったのかは明白だ。3-0から打ったからだ」

 試合後ウッダード監督も同様の説明を行い、不満を表している。

 「個人的に好きではない。7点差がついて8回を迎えていた。3-0からバットを振るべきではない典型的な場面だ。我々はそうして試合を続けてきた。だがそうした規範が蔑ろにされている」

 タティスJr.選手の満塁弾は、明確な掟破りだと受け取られてしまったのだ。

【サイン見逃しが原因でタティスJr.選手が謝罪】

 実はパドレス側もタティスJr.選手の満塁弾が、礼を失した行為だということは理解していたようだ。

 ジェイス・ティングラー監督は、以下のようにタティスJr.選手を擁護しながら事情を説明している。

 「確認しておきたいことは、あの場面で0-3からサインが出ていた。彼は若く、とにかくあの場面に集中していた。だがあの場面での本塁打は、我々が最も望まなかったことだ。これは大事な学ぶ機会で、彼らはここから成長するだろう」

 つまりティングラー監督はタティスJr.選手に対し、待てのサインを出していたのだが、彼はそのサインを見逃し満塁弾を放ってしまったというわけだ。

 タティスJr.選手も試合後にその事実を認め、謝罪しているようだ。

【タティスJr.選手擁護派が次々出現】

 あくまでタティスJr.選手の行為は“unwritten rule”を破ったものであり、MLBの規則に違反したわけではなく何の処分対象にもならない。

 逆にジボー投手の投球は故意による危険球とみなされ、MLBからウッダード監督に1試合、ジボー投手に3試合の出場停止処分が下されている(ジボー投手は提訴している)。

 ただ球界内ではタティスJr.選手を擁護する声も上がっている。その1人がトレバー・バウアー投手だ。彼はTwitter上に、タティスJr.選手に今後も続けるべきと応援メッセージを投稿している。

 MLBでも“unwritten rule”は微妙な存在になり始めているようだ。これも世代交代なのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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