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オリックスの山本由伸は今すぐにでもMLBでエース役を担える次世代型先発投手だ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
21歳ながらオリックス投手陣を牽引する存在になった山本由伸投手(筆者撮影)

【確実に進化を遂げた有言実行の21歳右腕】

 昨シーズンが終了した時点で、ずっと今シーズンの投球を楽しみにしてきた投手がいる。オリックスの山本由伸投手だ。

 昨シーズンの最終戦に先発し、ソフトバンク打線を相手に6回1失点の好投を演じ、シーズン防御率を1.95とし、初の最優秀防御率のタイトルを獲得した同投手は、試合後に以下のように語っていた。

 「いい数字を残せたのはかなり嬉しいんですけど、来年はもっともっといい数字を出せるように、また出せると思っているので頑張ります」

 最優秀防御率は投手にとって最も価値あるタイトルだと思っている。シーズンを通して最も相手打者を抑えた投手に贈られるものだからだ。その投手ナンバーワンともいえる称号を手にしながら、山本投手はまだまだ良くなると断言していたのだ。

 その言葉は、間違っていなかった。ここまで4試合に先発した彼のパフォーマンスが全てを物語っているので、今更余計な説明は要らないだろう。

【すでにNPBを代表するエース投手に】

 今シーズンの山本投手の投球は彼が約束していた通り、また成長の階段を一段上がり、もはや異次元の世界に足を踏み入れたような気がしてならない。

 6月28日のロッテ戦は5失点(4自責点)を喫し6回途中でチームを勝利に導くことができなかったが、それ以外の3試合ではエースとして7イニング以上を投げ、いずれも勝利投手になっている。

 ちなみにここまでセ・パ両リーグを通じて、山本投手と同様に3試合7イニング以上登板している投手は、広島の大瀬良大地投手と楽天の則本昂大投手の2人しかいない。21歳の若者が、すでにNPBを代表するエース投手の1人になったといっていいだろう。

 ここまで山本投手の投球を見て感じることは、彼はMLBの現在のエース像に見事に合致した、次世代型の先発投手だということだ。間違いなく彼は、今すぐにMLBに挑戦したとしても、MLBでエース格として通用するのではないだろうか。

すでにMLBからも注目を集める存在になった山本投手(筆者撮影)
すでにMLBからも注目を集める存在になった山本投手(筆者撮影)

【MLBが求める現在のエース像】

 このまま話を進める前に、まずMLBの現在のエース像というものを理解してもらわないといけない。

 もちろんエース投手に求められる条件として、「1年間を通じて先発陣の核としてローテーションを守り、中継ぎ陣の負担を減らすため少しでも長いイニングを投げること」という根底部分は、今も変わっていない、

 だがここ数年は、“少しでも長いイニングを投げる”にさらに条件が加わり、“より少ない球数で長いイニングを投げる”が重要視されるようになってきている。

 例えばダルビッシュ有投手を例に取ってみよう。

 彼はMLB挑戦1年目の2012年シーズンでは、29試合の登板のうち17試合で球数が110球を上回っている。しかし昨シーズンに関しては、110球を超えたのは31試合中わずか3試合でしかない。

 ただ8年前と昨年では所属チームと監督が違っているのだから、起用法が変わって当然かもしれない。だがこの傾向は、ダルビッシュ投手だけではなくMLBの潮流といえるものだ。

【エースの理想は110球以内、7イニング以上】

 こうした傾向になった最大の原因は、ポストシーズンだ。現在のポストシーズン制にある。

 今では進出チームの数が増え(来シーズンはさらに増える可能性がある)、ワールドシリーズまで進めばポストシーズンだけで1ヶ月以上の戦いを強いられるようになった。

 そのため以前のようにエース投手をシーズンでフル回転させてしまうと、ポストシーズンで失速してしまうケースが多くなってきた。その防御策としてエース投手でもしっかり投球数がモニタリングされるようになった。

 そこで、2019年にサイヤング賞を受賞したジャスティン・バーランダー投手とジェイコブ・デグロム投手の投球データを見てみよう。

 まず2人の完投数だが、バーランダー投手は2試合、デグロム投手に至っては1試合も完投していない。その一方で7イニング以上登板した試合は、バーランダー投手が34試合中17試合で50%に達し、デグロム投手が32試合中19試合で59.4%に上る。

 また2人が2イニング以上投げた試合の平均球数は、バーランダー投手が104.6球で、デグロム投手が104.8球と、いずれも110球を下回っているのだ。

 まさに“110球以内、7イニング以上”が、現在MLBでエース投手に求められる条件といえる。実はこの条件こそ、日本の投手が最も苦手にしている部分でもある。

 これまでMLBに挑戦してきた投手たちは、NPB時代に“先発完投型”のエースとして、あまり球数を気にすることなく長いイニングを投げてきた投手が多かった。そのため比較的球数のマネージメントが苦手な投手が多く、なかなかエース格として安定して長いイニングを投げられる投手が少なかったように思う。

 ただし個人的な意見だが、上原浩治投手がもっと早くMLBに移籍できていたのなら、現在の条件にも合致できるような先発投手になっていたと推測している。

【山本がMLBのエース条件に合致する3つの要素】

 それでは山本選手に話を戻そう。

 今シーズンの彼は前述通り、ここまで4試合に投げ3試合で7イニング以上投げている(8イニング、7イニング、完投)。しかも7位イニング以上投げた3試合の平均球数は105.3球に留まっている。見事にエースの条件をクリアしている。

 こうした投球を可能にしているのは、大きく3つの要素があるようと思う。

 1)全球種が一級品

 パ・リーグ初の完投勝利を飾った日本ハム戦では、自身最多の13奪三振を記録しているが、自分がチェックした限りでは、決め球としてストレート、ツーシーム、カッター、カーブ、フォームを使っていた。裏を返せばすべての球種が一級品だからこそ、決め球に使用できるのだろう。

 つまり1つの球種に頼らなくてもいいので、投球の組み立てが楽になる。その分球数も少なくていいわけだ。

 また150キロ中盤のストレートを含め、すべての球種の球速がMLBトップクラスだというのも見逃せないポイントだ。ちなみに昨シーズンのバーランダー投手の速球の平均球速は94.6マイル(約152キロ)だった。

 2)終盤になっても球速、球威がほぼ安定

 公称178センチの身長で、150キロ中盤のストレートを投げることを考えると、さぞや力投タイプかと思われるかもしれないが、彼の投球フォームには力感がまったくない。実際無観客試合での登板を見ていても、力投タイプの投手が投げる度に声を張り上げる中、山本投手は実に淡々と投げ続ける。

 その力みの無さも影響していると思うのだが、彼は試合を通じて球速がほとんど落ちない。前述の日本ハム戦でも、9回になっても150キロ台を記録しているし、変化球の球速も初回とほぼ変わらなかった。それだけ長いイニングをして安定した投球ができることを意味している。

 これは彼のセットポジションにもいえることだ。山本投手は左脚を上げた際にタメをつくる投球フォームだが、走者を出してクイックステップで投げても、やはり球速、球威がほぼ変化しない。これも大きなポイントだ。

 3)抜群の制球力

 7月5日の西武戦で4死球とバランスを崩す場面もあったが、基本的には今シーズンは抜群の制球力をみせている。

 ここまで4試合のうち3試合が無四球試合なのだ。もちろん無駄な四球を与えなければ必然的に球数を減らすことができる。

 果たして今シーズンの山本投手はどれ程NPB界を席巻することになるのだろうか。ただ一つ断言できることは、海の向こうからMLBが常に彼に熱い視線を送り続けることになるだろうということだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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