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合同練習会の定期開催で高校球児の故障リスクは大幅に改善される?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
米国最大級の高校球児対象のショーケース「エリア・コード」(公式サイトより)

【プロ志望高校球児のためのショーケース】

 すでに各スポーツ紙が報じているように、日本学生野球協会が、プロ志望届を提出した高校球児を対象に「合同練習会」の実施を承認した。日本野球機構(NPB)と日本高野連がタッグを組んで主催するという画期的な試みだ。

 今回の合同練習会は、新型コロナウイルスの影響でプレーの場を失ったプロ志望の高校3年生が、NPB関係者に向けプレーを披露する場であり、一般的に「ショーケース」と呼ばれるものだ。

 ショーケースというシステムは、米国ではごくごく一般的なものだ。NBAやNFLはドラフト前にプロ志望選手を集めショーケースを毎年開催しているし、MLBでも地域ごとにスカウトが選手を集めショーケースを実施するのが恒例になっている。

 特に高校球児向けのショーケースとして有名なのが、毎年8月にロングビーチで開催されている「エリア・コード」だ。このイベントにはトライアウトを勝ち残った高校球児が全国各地から集結。高校球児を対象にしたショーケースとしては最大級のものだ。今年も8月6~10日の日程で開催が予定されている。

【ショーケースの定期開催に期待】

 ただ今回の合同練習会実施は、あくまで新型コロナウイルスの影響よる救済措置ともいえるもので、特例的なもののようだ。

 しかし日本でもショーケースを定期開催することによって、NPB、高校球児の双方がメリットを受けることになるのだ。

 以前NPB某チームのスカウト担当者から話を聞かせてもらったことがあるのだが、彼らは地域ごとに担当が決まっているとはいえ、高校、大学、社会人、独立リーグを一手にカバーしている。結局チームとして調査を進めている選手を中心にスカウト活動せざるを得ず、全国すべての選手を網羅するのは不可能だといっていい。

 それがショーケースを開催すれば、プロ志望選手を一カ所に集め、じっくりチェックすることができるのだから、普段のスカウト活動以上の成果を期待できる。中には調査対象外から有望選手を発掘できる可能性すらあるのだ。

 これはあくまで空想の話だが、故障のため懸命なリハビリを続けてきたものの、結局高3の公式戦に出場できなかった投手がいたとしよう。

 ところが夏が終わった頃にようやく身体の状態が良くなり、久しぶりに投球練習をしたところ、リハビリの成果なのか故障前以上の球を投げられるようになっていた。とりあえず球速を計測してみると、140キロ後半出ているのが判明した。

 もしこの投手が一念発起でショーケースに挑戦したならば、興味を示すスカウトが現れてもおかしくないだろう。そうした境遇の高校球児は少なからず存在するはずだ。そうした陰に隠れた高校球児にたちにとっても、ショーケースは絶好のアピールの場になる。

【フィジカルチェックの義務化で故障リスクが軽減?】

 今回の合同練習会は定かではないが、ショーケースに参加する選手にフィジカルチェックを義務づければ、双方にとって更なるメリットが生まれる。

 現状でNPBチームは、ドラフト前に調査対象選手の健康状態をしっかり把握することができない。つまりドラフト指名後に選手の故障が判明するリスクを抱えているし、実際そういうケースも起こっている。

 それをショーケースの場でしっかり確認できれば、リスクを大幅に軽減することができるわけだ。

 選手にとっても同様だ。フィジカルチェックで異常が見つかっている中でショーケースに参加するのは絶対に避けたいし、万全の状態で臨みたいという意識が芽生えるはずだ。そうなれば深刻な故障を避けるため、無理をしてまでプレーをしなくなるだろう。

 またドラフト指名候補選手を抱える指導者にしても、ショーケースで所属選手の故障が発覚するようなことになれば、指導者としての責任を問われかねない。やはり万全の状態でショーケースに送り出すためにも、無理な起用法を避けるようになるはずだ。

 まさに合同練習会実施は、変革に向けた大きな一歩ではないだろうか。せっかくNPBと高野連が手を組んだのだ。今後も高校球児のためにも関係を強化していって欲しいと願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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