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選手会が規約違反で待った! 敏腕エージェントのマイナー選手救済計画が白紙に

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
解雇された所属マイナー選手のサラリー支払いを選手会に止められたスコット・ボラス氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ボラス氏のマイナー選手救済計画を選手会が待った】

 MLBがマイナー選手に対する支払い補償期間が切れる5月31日を前に、多くのチーム(野球専門サイト『Baseball America』によれば30チーム中24チーム)がマイナー選手の大量解雇に踏み切ったことは、日本でも大きく報じられた。

 そんな中、MLB界随一の敏腕エージェントとして知られるスコット・ボラス氏が、彼の事務所に所属するマイナー選手に対し解雇後も個人でサラリーを支払う方針を明らかにしていたが、これに対し選手会が規則違反だと待ったをかけた。

 『THE ATHLETIC』のケン・ローゼンタール記者記者が、報じている。

【選手会のエージェント規約違反?】

 同記者によると、ボラス氏は選手会から連絡を受け、サラリー支払い行為は選手会が定めるエージェント規約に違反するものだとの説明を受けたという。このためボラス氏は計画を取りやめることにし、米国民の投票権行使を支援する非営利団体に寄付したという。

 選手会の定めるエージェント規約には、選手や彼らに関連する人物に対し1年間で500ドル以上の金品の授与を禁止するという条項があり、ボラス氏の行為はこれに抵触するということらしい。

 ただこの条項は、選手を勧誘する際の禁止行為という側面が大きく、ボラス氏もこの条項を把握した上で、今回の行為はすでに契約している所属選手を対象にしているものであり、規約違反に当たらないという考えを示している。

【マイナー選手は選手会の対象外】

 今回の決定で一番の被害を被ったのは、いうまでもなく解雇されたマイナー選手たちだ。彼らはこれで無職、無収入の境遇に逆戻りしてしまったのだ。彼らにとって選手会の判断は、さぞや不条理に思えただろう。

 選手を守るべきはずの選手会がなぜこんな非情な行為に及んだかといえば、基本的にマイナー選手は選手会の対象外だからだ。一度でもメジャー契約にサインしたことがある選手は晴れて選手会の仲間入りできるが、それ以外のマイナー選手は統一労働規約(いわゆるCBA)からも除外されている存在なのだ。

 つまり解雇されたマイナー選手の多くが、選手会の管轄外の選手たちなのだ。とはいえ、この中から将来的に選手会に加わる選手も現れる可能性はあるわけで、球界全体が緊急事態を迎えている今回ばかりは、ボラス氏の救済計画を容認してもいいように思うのだが…。

【裏に隠された競合エージェントの危機意識?】

 ローゼンタール記者によれば、どうやら選手会からボラス氏への今回の通達は、他のエージェントから規約違反の疑いがあるとの告発があったからのようだ。

 別のエージェントの話として、選手会がボラス氏の行為を止めなければ、他のエージェントも解雇された所属マイナー選手にサラリーを支払うことを強要されるかたちになってしまい、また今後選手を勧誘する際に様々な方法で選手に金品を授与する道が広がってしまうという危惧を抱いているとしている。

 見方によっては、現在野球部門で最高額のコミッション収益を得ているボラス氏のスタンドプレーに対し、選手を引き抜かれそうな競合エージェントが選手会を通じて押さえ込みにかかったような構図にも見える。

 いずれにせよ、再び収入を失ったマイナー選手たちが別のかたちで救済されることを祈るばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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