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NFL屈指の人気QBの発言が波紋を! スポーツ界で再燃しそうな人種差別論争

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
国歌斉唱時に片膝をつく行為を疑問視したドリュー・ブリーズ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【NFL人気QBが発した人種差別問題に繋がる発言】

 ミネソタ州ミネアポリスで起こった白人警官による黒人男性暴行死事件に端を発し、全米中に拡散した抗議活動は、今や一部で略奪行為に及ぶ暴動にまで発展し、新型コロナウイルスから立ち直っていない米国で新たな社会問題と化している。

 抗議活動が沈静化する様子はなかなか見られない一方で、米国のみならず世界中の有名アスリートたちが人種差別撲滅を訴える声を上げ、活動は世界中に広がろうとしている。

 そんな状況下で、NFLを代表する人気QBが人種差別問題に関する発言を行い、スポーツ界で波紋を広げている。

 2006年からセインツで主力QBとして活躍し、チームを6度の地区優勝と1度のスーパーボウル王者に導いたドリュー・ブリーズ選手が、ヤフー・ファイナンスのインタビューに応じ、人種差別問題に抗議する目的で数年前からNFLを中心にスポーツ選手が行ってきた国歌斉唱時の片膝をつく行為を疑問視したのだ。

【片膝をつくのは国旗と国を侮辱する行為?】

 ブリーズ選手の主な発言内容は、以下のようなものだ。

 「自分は、米国国旗や国自体を侮辱する人に誰1人として賛同することはない。国歌が演奏される中で掲揚される国旗を見ている時の自分の率直な思いと気持ちを伝えたい。

 自分はそうした状況で、常に2人の祖父のことを思い描いている。彼らは2人とも第2次世界大戦で祖国のために戦った人物だ。1人は陸軍で、もう1人は海兵隊として。彼らは命を賭けて国を守り、現在の国と世界の礎を築いてくれた。

 自分の胸に手を当て国歌を聴き、国旗を見ると、常に彼らのことを考えている」

 元々人種差別問題に抗議するため国歌演奏時に片膝をつく行為を始めたのは、2016年にフォーティナイナーズに在籍していたコリン・キャパニック選手だった。彼は2016年シーズンを最後にNFLから遠ざかっているが、抗議活動は他の選手に引き継がれ2017年も継続していった。

 これを問題視したドナルド・トランプ大統領は、ツイッターなどを通じてNFLと選手たちを徹底的に批難し、NFLとの間で大論争を繰り広げるまでに発展。さらにその論争は他リーグにも波及し、米スポーツ界とトランプ大統領は完全な敵対関係に陥ることになった。

 この時のトランプ大統領の言い分が、まさにブリーズ選手と同じ国旗、国に対する侮辱だった。

【同僚を含めアスリートたちが猛反発】

 トランプ大統領と大論争を繰り広げたアスリートたちが、今回のブリーズ選手の発言を容認できるはずはない。彼のチームメイトを含めNFL選手やOB、さらにはNBAからレブロン・ジェームス選手らも参戦し、次々にブリーズ選手に反発する声を上げた。

 彼らの主張は、至って簡単だ。片膝をつく行為は国旗、国を侮辱するものではなく、あくまで人種差別に抗議するもので、ブリーズ選手の捉え方が根本からずれていると感じているようだ。

【すでに片膝行為は人種差別抗議の象徴に】

 ブリーズ選手の意見はさておき、すでに片膝をつく行為は、人種差別に対する抗議する行為として広く一般市民に受け入れられているようだ。

 前述通り、米国では現在も国内各地で人種差別に対する抗議活動が続いており、多くの警官たちがそうした活動の警備に当たっている。

 ただ警官の中には単に抗議活動を取り締まるのではなく、抗議活動を行う人たちに同調し、彼らを支持する立場をとる人たちも存在している。

 ある白人警官は抗議活動のパレードに参加する人たちに対し、片膝をつく行為を行い人種場別に抗議する意思を示し、パレード参加者から拍手を浴びる姿がSNS上に拡散されている。

 それだけ片膝をつく行為が、人々に受け入れられているのだ。

【ブリーズ選手の今後の言動に注目】

 果たして各所から反発を受けたブリー選手に、彼らの言葉は届いているのだろうか。いずれにせよ、今後の彼の言動が注目されるところだ。

 またブリーズ選手が所属するセインツは、ニューオーリンズを本拠にしている。ニューオーリンズは米国でも低所得者層の黒人が集まる地域として知られ、今も人種差別は深刻な社会問題になっている。

 長年街の英雄的存在だったブリーズ選手に対し、ニューオーリンズ市民はこれまで同様、尊敬の念を抱き続けることができるのだろうか。そうした街の反応も気になるところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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