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時代はロボット審判導入に進もうとしているのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
退場処分を受けた後主審に抗議するジャスティン・バーランダー投手(左)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【3日連続で起こった判定トラブル】

 まずはツイッター上に投稿された3つの動画をチェックして欲しい。上の2つのツイートは指定サイトに入った後で動画を確認できる。

 最初の動画は8月26日のマリナーズ対ヤンキース戦のもので、2つ目と3つ目の動画は、8月27、28日のアストロズ対レイズ戦での出来事だ。

 マリナーズのケオン・ブロクストン選手とアストロズのジャスティン・バーランダー投手はこの騒ぎで退場処分を受け、さらにブロクストン選手は翌日になってMLBから2試合の出場停止処分を受けている。最後のジョシュ・レディック選手はあれだけの抗議をしていても、処分を受けていない。

 動画をチェックしてもらえば理解できるように、3つのアクシデントはすべて、主審のストライク/ボール判定が起因になっている。

【現場のフラストレーションは増すばかり?】

 選手や監督、コーチと主審の間で、ストライク/ボール判定を巡って揉め事が起こるのは今に始まったことではない。だが退場処分にまで及ぶ大きな揉め事が3日連続で起こっているのは、とても正常だとは思えない。

 3つの動画を見ても、主審の判定はいずれもかなり疑問が残る。それだけに多少選手寄りの見方をしてしまう部分はある。ただバーランダー投手のケースに関しては、あの場面での退場処分はややオーバーリアクションだったように感じられる。

 今やネット環境と映像技術の発達により、MLBでは2008年からビデオ判定が導入されている。審判の判定が常に完璧であるはずはなく、今も誤審として判定が覆るケースが続いている。

 その中で主審のストライク/ボール判定は、ビデオ判定の対象外のままになっている。しかも昨今は投手の平均球速が年々上がってきており、判定するのがますます厄介になってきているにもかかわらずだ。

 その上ベンチにいる選手、コーチたちは即座にすべてのプレーを映像でチェックできるようになっているのだから、彼らがストライク/ボール判定でフラストレーションを増しているとしても何ら不思議ではないだろう。

 それだけ現在の選手、監督、コーチと主審の間には、以前とは比べものにならない緊張感が生じているということだ。それに伴い、主審が背負うプレッシャーも相当なものになっている。

【時代はロボット審判導入を求めている?】

 当然のことながら、現状のままでは今回のような揉め事を解消するのは難しい。そこでMLBが模索しているのが、ロボット審判の導入だ。

 シーズン序盤に独立リーグのアトランティックリーグと業務提携を締結したMLBは、早速同リーグでロボット審判を試験導入している。ロボット審判を採用した7月10日の初試合は人々の関心を集め、各メディアでも大きく報じられている。

 今回試験導入されているロボット審判は、ホームプレート後方に設置されたレーダー追跡システム『トラックマン』を使用し、同システムが判断した判定を主審が携行するスマートフォンが即座に受信し、それをイヤフォンで確認するというものだ。

 動画サイトなどで試合のハイライトを確認できるが、多少曖昧な判定が見受けられたものの、大きな問題は起こっていない。その後もロボット審判がテストされているが、報道をチェックする限りでは障害なく運用されているようだ。

 試験運用を続けながら判定が更に安定してくるようになれば、現状を改善するためにもMLBでの本格導入の声が挙がってきてもおかしくはないだろう。

【ビデオ判定導入時も賛否の声】

 ただロボット審判導入には慎重な意見や考えが少なくない。人間が判断するファジーな部分が野球の魅力の1つだとの主張も繰り返されてきた。だがそうした意見は、ビデオ判定が導入される時にも聞かれたものだ。

 確かにビデオ判定の導入で、判定におけるファジーな部分はどんどん薄らいでいっている。その一方でネット環境と映像技術の発達により、ファンを含め試合に携わる人々を取り巻く環境が、ファジーな部分をファジーのままに留めておけなくなっているのも紛れもない事実だ。

 野球に対する人々の意識も着実に変化してきている。だからこそビデオ判定は対象プレーが拡大していき、今ではビデオ判定がなければ試合が成立できないほど、人々に受け入れられている。

【ロボット審判が主審の負担を軽減する】

 ビデオ判定導入で誤審が判然とするようになり、審判の技量の差が浮き彫りになってきた。もちろん審判からすれば決して歓迎できることではないと思う。

 だがその一方で、誤審を減らすべく審判は技術向上を目指していくしかないし、またビデオ判定によって誤審が明らかになる分、審判にのしかかるプレッシャーは軽減され、誤審をしたという贖罪意識を抱え込む必要もなくなった。

 2010年にタイガースのアルマンド・ガララーガ投手が9回2死まで完全試合を続けながら、最後の打者が放った一塁ゴロが一塁のジム・ジョイス塁審に内野安打と安定され、完全試合を不意にしたことがあった。

 試合後に誤審だと分かったジョイス氏は、メディアの前で涙を流しながら謝罪しているのが印象的だったが、ビデオ判定の導入で現在の審判はあのような苦悩から解放されている。ロボット審判もやはり同様の効果が期待できるはずだ。

 もう時代の流れは、ロボット審判導入へと着実に進んでいるのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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