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ブレーブスの若き主砲が犯した怠慢プレーに指揮官はどう対処したのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
自らの怠慢プレーで途中交代させられたロナルド・アクーニャJr.選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ブレーブスの若き主砲が犯した怠慢プレー】

 先月のことだが、広島の緒方孝市監督が試合中に怠慢プレーを行った選手に対し、複数回の平手打ちをしたことが明らかになり、大きな話題となった。

 MLBでもブレーブスの若き主砲で、昨年の新人王受賞のロナルド・アクーニャJr.選手が18日に行われたドジャース戦で怠慢プレーをしたことで、チームが行った措置がこちらも大きな話題となっている。

 MLB公式サイトなど複数メディアで、大きく報じられている。

【3回の怠慢走塁を理由に5回で途中交代】

 問題となったプレーは、アクーニャJr.選手が3回に立った第2打席のことだ。試合は0-3と劣勢で、無死1塁から右中間の深くに大飛球を放ったアクーニャJr.選手は、本塁打になりそうな打球を追うことに集中し、しっかり走塁をしようとしなかった。

 結局打球はフェンスを直撃し本塁打にならず。本来なら余裕で二塁打にできる当たりだったが、走塁を怠けたため単打に終わってしまい、この回は無得点で終わってしまったのだ。

 この怠慢プレーを見過ごすことができなかったブライアン・スニトカー監督は、5回の守備からアクーニャJr.選手を引っ込めてしまった。

 この打席はMLB公式サイトから動画で確認できるので、ぜひチェックして欲しい。

【チームにとって大きな意味があるドジャース3連戦】

 この週末のドジャース3連戦は、ブレーブスにとって大きな意味を持つカードだった。東地区で首位を走るブレーブスとしては、ナ・リーグ最高勝率を誇るドジャースとの対戦は、ポストシーズンを見据える上でもしっかり戦っておきたかったのはいうまでもない。

 もちろんスニトカー監督は、チーム全体が同じ思いで戦って欲しかったし、皆がグラウンドで全力プレーをしてくれることを期待していた。それだけにチームの若き主砲の怠慢プレーは絶対に看過することができなかったのだ。

 そんな思いを指揮官は、試合後に以下のように話している。

 「彼は走らなかった。走らねばいけないところだ。ここでは許容できる行為ではない。チームの1人として他の24選手とともに戦う責任があり、背中にある名前(選手の個人名)よりも胸にある名前(チーム名)の方がより重要な意味を持つ。あんなプレーをしてはいけない。常に何か特別なことを成し遂げようと挑戦し続けることだ。個人的なことは後回しにしなければならない。ああいうプレーでチームの士気を下げてはいけない」

【監督から事前説明に選手本人も納得】

 そうした監督の思いが他選手に伝わったのか、ブレーブスはアクーニャJr.選手が下がった5回に大量4点を奪い逆転に成功。そのまま5-3で逃げ切り2勝1敗でカード勝ち越しに成功している。

 もちろん交代させられたアクーニャJr.選手も、スニトカー監督の判断を尊重する発言をしている。

 「しっかり考えていなかった。そんなプレーの1つだ。監督としても判断が必要だと感じたのだろう。自分はその判断を尊重している」

 実はスニトカー監督はアクーニャJr.選手を交代させる前にベンチ裏の通路で1対1となり、彼を交代させることと、その理由をきちんと説明した。その時のアクーニャJr.選手の反応を、以下のように説明している。

 「大人の対応だった。彼は自分の説明を理解し、自分がミスしたことを認めてくれた。ここから彼は学んでくれるだろう。これで(今回の件は)終わりだ。ここからすべてがいい方向に進んでくれるだろう」

【絶対に対話を忘れないMLB】

 繰り返しになるが、スニトカー監督は交代前にしっかりアクーニャJr.選手に説明し、納得させてから交代させている。今回のような怠慢プレーによる交代劇を日本では“懲罰采配”などと表現することがあるが、今回のスニトカー監督の采配はどう見ても“懲罰”というものではないだろう。

 アクーニャJr.選手はまだ21歳。これから長期に渡りブレーブスを牽引していく存在だ。その選手を1日でも早く真のチームリーダーに育てようとしている、スニトカー監督の“親心”なのだ。そのためにも自分の真意を理解してもらうためにも、まず選手との対話が必要だったのだ。

 改めてMLB流の育成方法の妙を垣間見られた思いだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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