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金字塔を打ち立てた記念ボールはどこに帰属すべきなのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB史上3人目の通算2000打点を達成したアルバート・プホルス選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【大谷翔平の同僚が打ち立てた金字塔】

 大谷翔平選手の同僚で、長年MLBを代表するスラッガーとして活躍してきたアルバート・プホルス選手が9日のタイガース戦で、三回の第2打席に今シーズン6本目となるソロ本塁打を放ち、MLB史上3人目(公式記録が採用された1920年以降)となる通算2000打点を達成した。

 これまで2000打点に到達しているのは、通算755本塁打を放っているハンク・アーロン選手(2297打点)と同696本塁打のアレックス・ロドリゲス選手(2086打点)の2人のみ。もうプホルス選手の殿堂入りを確定させるような金字塔といっていい。

 この大記録達成に、大谷選手をはじめエンゼルスの選手たちは抱き合ってプホルス選手を祝福。敵地のファンもスタンディングオベーションで称えた。

【記念ボールを獲得したファンの行動が物議に】

 ところが祝福ムードから一変し、左翼席で観戦にプホルス選手の本塁打ボールを獲得していたファンがとった行動が、米国で物議を醸し出すことになってしまった。この顛末はMLB公式サイトでも報じられている。

 記事には動画が添付され、記念ボールを獲得したイーライ・ハイズ氏は、試合中に地元TV局のインタビューに応じている。そこで記念ボールをどうするのかと聞かれ、カージナルス・ファン(プホルス選手は元カージナルス)の兄弟か、もうすぐ生まれてくる自分の子供にあげるという案を示し、このまま保有することを明言していた。

 通常こうした記念ボールはチーム側から交換のオファーが届き、試合後に選手と直接対面し、サイン入りバットなどと交換するのが一般的だ。だがハイズ氏はエンゼルス、タイガース双方からの申し入れを断り(ハイズ氏はその恰好からタイガース・ファンらしく、タイガース選手のサイン入りグッズとの交換も提示されたようだ)、話していた通りプホルス選手に会うこともなく記念ボールを持ち帰ってしまったのだ。

【プホルスはあくまで寛容な姿勢でファンを擁護】

 試合後にハイズ氏がとった行動について尋ねられたプホルス選手はあくまで寛容で、決して彼を非難するようなことはなく、記念ボールに未練すら抱いていないような発言を繰り返した。

 「彼は自分の歴史の1ページとして素晴らしいものを得たと思う。これからボールを見るたびに、この試合を思い出してくれるだろう。自分は(記念ボールを取り戻すために)何かをするつもりはない。自分たちはファンのためにプレーしているんだ。彼が喜んでくれていると願っている。

 (記念ボールに)一銭も払うつもりはない。彼が保有してもらって構わない。自分はお金を払ってまで、ファンから(記念ボールを)得るためにプレーしているわけではない。彼は歴史の1ページを手に入れた。そのために彼らはお金を払って試合に足を運んでくれている。何の問題もない。ボールは観客席に飛んでいったんだ。彼はそれを保有する権利がある」

【記念ボールは公認されず幻に】

 もちろんプホルス選手が主張するように、記念ボールを獲得したファンの希望が最優先されるのは仕方がない。しかし彼がとった行動によって、記念ボールは未公認のままになってしまったのだ。

 現在のMLBでは、こうした記録を生み出した記念ボールは、すぐさま担当者がMLBの公認シールを貼り、公認された上で選手に渡したり、時には野球殿堂博物館で展示されたりするのだ。だがハイズ氏は記念ボールを持って球場を離れてしまったため、もう公認する術を失ったのだ。

 というのも、もしハイズ氏が翻意してプホルス選手と返そうと思ったり、オークションに出展しようとしても、彼に悪意があればオリジナルをキープしたまま別のボールを記念ボールだと主張することができてしまうからだ。

 プホルス選手のように、ファンを責めるつもりはない。だが今回の記念ボールは殿堂博物館に展示してもおかしくないレベルの記念ボールだっただけに、公認できなったことは野球界にとって大きな損失だったことは間違いない。本当に悲しいことだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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