正式にマリナーズ入りした菊池雄星を待ち受ける2つの「3」

菊池雄星投手のローテーション入りを明言したジェリー・ディポトGM(写真:ロイター/アフロ)

 マリナーズは現地3日、本拠地球場『Tモービル・パーク』で正式に菊池雄星投手の入団会見を行った。すでに日米メディアが報じているように、会見上の菊池投手は自己紹介ばかりでなく米メディアからの質問に対して英語で答えるなど、MLB選手として素晴らしいスタートを切っている。

 日本人先発投手のMLB挑戦は前田健太投手(大谷翔平選手は二刀流なので対象外)以来3年ぶりとなるが、米メディアはマリナーズの菊池投手獲得を投手陣の強化に繋がると好意的な見方をするとともに、もちろんチームも即戦力と期待しており、ジェリー・ディポトGMも来シーズンの先発ローテーション入りを明言している。

 これまでマリナーズは佐々木主浩投手を皮切りに、イチロー選手、長谷川滋利投手、岩隈久志投手ら多くの日本人選手が活躍してきたチームだが、とりあえず菊池投手は契約事情とチーク事情から、2つの「3」をクリアしなければならない。

 まず1つ目が先発「3」番手というポジションだ。入団会見でディポトGMが話しているように、チームは菊池投手に来シーズンは30~32試合の登板数を期待している。この数字はまさに先発3番手の投手に求められるものだ(先発1、2番手は33試合前後で、先発4、5番手は多くて25~30試合が目安)。

 これは、松坂大輔投手やダルビッシュ有投手、田中将大投手のように鳴り物入りでMLB入りした投手たちがシーズン1年目に期待されたポジションだ。それまで日本でエースとして活躍してきた投手に大いに期待を寄せる一方で、新しい環境で投げることに慣れさせることを目的に、“準エース”的な扱いで少しでもプレッシャーを軽減させたい思惑があるからだ。そうした彼らに求められているものが、「30試合」の登板数と「180~200イニング」の投球回数だ。

 だが菊池投手が、シーズン1年目からこの先発3番手を任せられるというのは少々不安が残るといわざるを得ない。西武時代の彼は、2017年に26試合、187.2イニングを投げたのが最高で、それ以外のシーズンは23試合以下、163.2イニング以下に留まっている。あまりに実績がなさ過ぎるのだ。

 上記の3投手以外、黒田博樹投手や前田健太投手らも、ほとんどの投手たちが長年日本でエースとしてローテーションを支え、28試合以上、200イニング以上の登板を経験してきている。だからMLBに来てもある程度の修正で対応できると期待されてきた。だが菊池投手にとって28試合以上、200イニング以上はいずれも未体験ゾーンなのだ。

 菊池投手の実績を考慮すれば、本来は登板間隔に融通のきく先発5番手で適応度をチェックしていくのが理想的なのだと思う。だがマリナーズのチーム事情からシーズン1年目から先発3番手を任せるしかない状況にある。先発投手陣のコマ不足から菊池投手が背負う期待値は、ある意味西武以上なのかもしれない。

 ただディポトGMが説明しているように、中4、5日間隔に慣れさせるため若手有望投手と同様に、当面は登板5試合か6試合ごとに「1イニングもしくは30球程度」の軽めの登板試合を設ける予定で、菊池投手がMLBスタイルの登板間隔になれるまでは続けていくとしている。これはかなり投球回数を抑えることができるので、菊池投手にとって大きな優遇措置になるだろう。

 そして菊池投手は、契約「3」年以内にチームが期待しているレベルの投球をできるようにならなければいけないのだ。すでに日米のメディアが報じているように、現時点で菊池投手が保証されている契約は3年4300万ドル(約47億円)でしかない。この3年契約が終了した時点で、マリナーズは4年総額6600万ドル(約71億円)の契約延長のオプション権を持っており、もしチームがこの権利行使を拒否すると、菊池投手はFAになるか、年俸1300万ドル(約14億円)でもう1年だけ残留するか、いずれかの道を選択しなければならなくなる。

 今回菊池投手を担当した辣腕エージェントのスコット・ボラス氏としては、オプションではなく保証された長期契約を模索していたはずだと思う。例えば前田投手の契約は多くのインセンティブをつけて年俸が抑えられているものの、8年契約総額2500万ドル(約27億円)が保証されている。選手としてはどんな状況に置かれても8年間は契約が保証されるのだから、こちらの方がリスクを回避できる。もし前田投手が菊池投手と同様の契約を結んできたとしたら、シーズン3年目を終えた前田投手に対しドジャースが契約延長のオプション権を行使していたか、かなり微妙なところだろう。3年間チームが期待するような成績、成長を示すことは決して簡単なことではないのだ。

 ただマリナーズはオプション権を行使せず、菊池投手がマリナーズ残留を決めたとしても、シーズン4年目で素晴らしい成績を残せれば、またマリナーズから新たな大型契約を引き出せる可能性はあるし、もっといい契約を求めて他チームへ移籍することもできる。だが今回の契約では、3年以内に大きな故障をしてしまうと、菊池投手は間違いなくマリナーズを去るしかなくなるだろう。

 つまりマリナーズからすればリスク回避策ともいえる変則契約を提示してきたということは、実はマリナーズ自身も菊池投手に期待を寄せている一方で、一抹の不安を感じているからに他ならない。果たして菊池投手は2つの「3」をクリアできるのだろうか。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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