Yahoo!ニュース

大阪エヴェッサ成功のカギを握る男! 熊谷尚也が見せ始めた安定感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
12日の滋賀戦で13得点を挙げ勝利に貢献した熊谷尚也選手(筆者撮影)

 現在のBリーグはすべてのチームに共通することだが、外国籍選手や帰化選手の出来次第で決まるといっていい。だがその一方で彼らに続く日本人トップスコアラーが存在しないと、安定した戦いを続けるのは難しいといっていい。

 それを痛切に感じさせるチームの1つが大阪エヴェッサだ。シーズン開幕は4勝1敗と好スタートを切ったに思えたが、故障者もあり第4節から8連敗と一気に低迷。連敗脱出後は5勝4敗と徐々に調子を上げていき、現在は9勝13敗まで戻し、西地区4位につけている。このチームの好不調に直結しているともいえる存在が熊谷尚也選手だ。

 先発3番(SF)として開幕したものの、負傷のため欠場を余儀なくされた10月20日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦からチームは8連敗に突入する。そして11月10日の横浜ビー・コルセアーズ戦に先発に復帰(5連敗後に戦列復帰するもベンチスタート)すると、チームは連敗を脱し、現在に至っている。つまり熊谷選手が先発出場している試合に限っては、ここまで9勝5敗と大きく勝ち越ししている。

 特にここ最近は、ジョシュ・ハレルソン選手、エグゼビア・ギブソン選手に並ぶ主要得点源として機能している。ここまでシーズンの平均得点は7.8だが、ここ6試合だけをみると6試合中4試合で二桁得点を記録。平均得点も11.2得点を記録しており、今や日本人トップスコアラーの地位を固めつつある。

 ここ最近のプレーについて熊谷選手本人に確認してみた。

 「自分としては気持ち的に何か変わったというのはなくて…。ただリズム良くシュートを打っていた時というのは、自分の中でもすごくリズムがつくれるようになってきたというのが少し上向きになった要因かなと思います。

 自分としては開幕からうまくリズムに乗れなくて、パフォーマンスにも影響して簡単なミスだったりとかも多かったんですけど、何かきっかけがあったというわけではなくて、チームメイトから『思い切り打て』だとかポジティブな声がけをしてもらっていたので、そういう面でチームメイトをより頼りにするようになって、プレー面に余裕ができたのかなというのがあると思います」

 熊谷選手といえば身長195センチを誇る長身ウィングマンで、代表経験もある逸材として知られている。昨シーズンエヴェッサに移籍してきた時から日本人トップスコアラーになることを期待されてきた選手だ。今シーズンから指揮をとる穂坂健祐HCも、熊谷選手が安定的な働きをしてくれるように苦心してきた。

 「彼自身日本代表候補に呼ばれたりいろんなことがある中で開幕を迎えて、正直他の選手と比べると夏の間練習時間が少なかったというのがマイナス面に感じました。彼自身もっと活躍できるのにできないという葛藤の中で戦っていたと思いますし、その中で大村(スキルディベロップメント)コーチとシュートを打ち切る練習を毎日していて、そういう細かいことをやり続けた結果が彼自身のプラスになっていると思います。

 自分自身も最初の頃は不調というのではなく彼を生かし切れていないというのを感じていました。正直どう生かせるのかを考えた時に、特別なプレーではなくて結果的にはメンタル的な部分をプッシュしてあげて、シュートが外れた時もシュートを打ち続けるメンタリティを持つようにさせるだとか、そういった声がけをしないといけないと思いました。それが結果的に繋がったのかは分からないですけど、少し波があった次期を乗り越えて良かったと思います。

 自分自身としても彼がこのチームの日本人選手の中でエースにならないといけないと、スタッフの中で話していますし、その後押しとサポートをこれからもしっかりやっていきたいと思います」

 今さら熊谷選手の才能・技術を疑うものは誰もいない。穂坂HCとしても技術云々よりも、とにかく彼にエヴェッサの日本人リーダーとしての自覚を持たせるように声をかけ続けたようだ。その思いは確実に熊谷選手に届いている。

 「ヘッドコーチからも練習内外でそういってもらっているし、プレー時間も長くコートに立たせてもらっているので、そういう面では外国人選手だけに頼らず日本人選手も得点に絡まないといけないですし、そういうところではアグレッシブに得点に絡んでいかないといけないと思います。ここ1ヶ月ぐらいのパフォーマンスを最低限にしてもっともっと上げれるようにしたいと個人的には思ってます。

 (チームリーダーとしては)声がけとかチームを引っ張っていけるタイプではないと自分では思っていて、僕がチームメイトを引っ張るにはパフォーマンスでみせることがチームメイトに対して伝えられることかなと思っているので、言葉というよりもプレーでしっかりみせたいと思ってます」

 こうして熊谷選手から話を聞かせてもらっていても、話しぶりや言葉の端々から優しさが滲み出てくるようなタイプだ。勝負の世界で生きる人間としてはやや不利な性格かもしれない。ただここ最近の彼は、シュートが決まらなくても諦めることなくシュートを打ち続ける断固たる決意を抱きつつあるように見える。

 日本代表に目を転じると、熊谷選手のポジションは比江島慎選手を筆頭に、田中大貴選手、馬場雄大選手、金丸晃輔選手ら実力選手が目白押しで、最も層が厚いポジションともいえる。今後熊谷選手が日の丸を背負い続けるには激しい競争を勝ち抜かねばならない。

 「まずはシュート確率を上げていくというのは(日本代表の)ラマス・コーチからもいわれているので、そこはしっかりやっていかないといけないと思っていますし、オープンシュートはしっかり決められるようにしないといけないと思っています。あとはディフェンスの部分でディフェンス力を上げるというのが必要になってくると思いますね」

 現在の熊谷選手は、エヴェッサでのプレーの質を上げることがそのまま代表に繋がると信じてプレーを続けている。熊谷選手が本領を発揮するのはまだまだこれからだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事