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開幕4連敗の横浜ビー・コルセアーズ 2年ぶりに現場復帰した名将トーマス・ウィスマンが抱える苦悩

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
2年ぶりに現場復帰したトーマス・ウィスマンHC(筆者撮影)

 Bリーグの2018-19シーズンは第2節が終了する中、横浜ビー・コルセアーズが開幕から4連敗と苦しいスタートを切った。

 第1節は富山グラウジーズ相手に、第1戦82-94、第2戦77-101で敗れ、先週末に実施された第2節では京都ハンナリーズを相手に、第1戦80-84、第2戦81-87と勝利を挙げることが出来なかった。最初の3試合は前半で相手チームに大量リードを許し、そのまま追いつけずに敗れるというパターンを繰り返していたが、ハンナリーズとの第2戦はリードされる展開ながら、第4Qまで互角の戦いを演じた。一時は逆転でリードを奪うところまで持ち込んだが、終盤で再逆転され惜敗している。

 今シーズンから指揮をとるのはトーマス・ウィスマンHCだ。同HCは2016-17シーズンに栃木ブレックスをBリーグ初代チャンピオンに導いた後、昨シーズンはビー・コルセアーズでアドバイザーを務めていたが、2年ぶりに現場復帰することになった。これまで1988-89シーズンにいすゞ自動車でACを務めたのを皮切りに、男子日本代表HCを含め日本の男女バスケチームで長年にわたり指導してきた名将だ。もちろんチームとしても、ウィスマンHCの手腕に大いなる期待を抱いての起用であることは間違いない。

 だが開幕4連敗という成績のみならず、簡単に大量リードを許してしまうという試合内容をみても、ウィスマンHCが求めているチーム状態に達していないのは明らかだ。果たして現状をどう捉えているのだろうか。

 「我々には“ある1つの言葉”が不足している。ディフェンスだ。先週(第1節は)94点、101点を許し、今週(第2節も)84点、87点も失点している。多少の改善点はみられると思うが、このリーグではまだまだ通用しない。ディフェンス面では明らかにチームとしてマンツーマンディフェンスが機能していない。現時点では勝つためにゾーンディフェンスで臨むしかない状態になっているが、本来なら両方を組み合わせていかないといけないのに、チームにそれが出来る能力が備わっていない。その点を改善していかねばららない。

 失点が高いだけでなく、相手チームのシュート成功率も高すぎる。(ハンナリーズの第2戦の)55%というのは、自分たちの仕事を遂行できていないことを意味している。先週も外国籍選手(ジョシュア・スミス選手)に19本中17本のシュートを決められ、今週も外国籍選手(デイヴィッド・サイモン選手)に16本中14本決められている。それだけインサイドのディフェンスが弱いことだ。ディフェンス全体としても50%以上の成功率を許してしまうのは受け入れらない数字だ」

 ウィスマンHCが説明するように、現在チームが抱える最大の問題がディフェンスだ。この4試合でチームの得点はほぼ80点前後と安定しているが、それを上回る失点をしてしまっては勝つことは出来ない。特に同HCが指摘するマンツーマンディフェンスが上手く機能せず、そこで大量リードを許してしまっているケースがほとんどだ。結局ゾーンディフェンスに頼らねばならなくなり、相手チームに攻略されてしまっている。

 また得点が安定しているとはいえ、ウィスマンHCが納得できるわけではない。オフェンス面でも課題は少なくない。

 「(ハンナリーズ第2戦では)オフェンス・リバウンドを含めリバウンド数で相手を上回り、セカンドチャンスの得点も上回っている。さらにターンオーバー数も互角だったことを考えれば、我々の方がポゼションが多かったということだ。しかしそうしたチャンスを生かせず、シュート成功率を上げることが出来なかった。

 またここまでの試合では相手チームに比べてFTを得られていない。それは積極的にアタックしておらず、ジャンプシュートに頼っていることを意味している」

 今シーズンのビー・コルセアーズは、昨シーズンから7選手が抜け新たに8選手が加わっている。チームの中心となる外国籍選手および帰化選手もすべて入れ替わり、そのうちの1人はまだ実績のない22歳のアマンゼ・エゲケゼ選手を獲得している。ウィスマンHCにとって、まさに一からのチームづくりといっていいだろう。

 栃木ブレックス時代にウィスマンHCの指導を受け、現在チームの大黒柱である川村卓也選手からは、現在のチーム状況はどう映っているのだろうか。

 「オフェンス、ディフェンスともにコーチが求めているところに達していない選手のパフォーマンスがありますし、やはり毎試合失点が80点以上だと、今の僕らの得点能力では勝ちが遠のいてしまうようなゲームをしていると思うので、この4試合を振り返ればディフェンス強度が低いことが一番の問題かなと思います。

 コーチが長い時間ゾーン(ディフェンス)を使用しているこということは、僕らのマンツーマン(ディフェンス)を信じてもらえてない表れだと思うので、やはりディフェンスというのはマンツーマンが出来て、そこからさらにオプションとしてゾーンがあると思います。相手の総合得点は相手のパフォーマンスによりますけど、今日のゲーム(ハンナリーズ第2戦)を挙げればサイモンがゴール下で85%以上のシュート成功率ですし、そうした選手が相手にいる限りはディフェンスが成功しているとはいえないです。勝手な僕の分析では、監督ではなく僕らが選手のIQを使ってバランスを考えてディフェンスをしなきゃいけない場面があるのかなと思います。

 僕らは勝ちに慣れているチームではないので、まだ勝ち方がわからない部分が非常に多いんですけど、ただトムHCには僕のキャリアの中で唯一優勝させていただいたコーチなので、やはり勝つことを知っているコーチだと思いますし、彼がやろうとしていることを他の選手より僕は理解しているつもりなので、そういうところをパフォーマンスや声に出してチームを引っ張っていくことが今後もやることに変わりはないですし、それを僕がしっかり示していければ(他の選手たちが)ついてきてくれると信じてパフォーマンスしなきゃいけないなと思っています」

 まさに川村選手も、ウィスマンHCとまったく同じ思いを共有している。それはチームが進むべき方向が明確であるという裏返しでもあるだろう。だからといって2人が望む方向にチームを導くのは、決して簡単な作業ではなさそうだ。それは同HCの以下の言葉からも理解できるだろう。

 「これまでのコーチ人生で、これほどディフェンスの知識と基礎がないチームを指導するのは過去にないことだ。彼らに基礎を教えることは、自分にとって最大のチャレンジだ。自分はそのチャレンジを受け入れたのだが、現時点ではまだその答えがみつかっていない。

 このチームは大学在学中や卒業したばかりの若い選手が揃っている。彼らは若い分、指導しやすいし成長も期待できる。今後彼らを輝かせていけるように頑張りたい」

 果たしてウィスマンHCは、今後ビー・コルセアーズをどんなチームへと変貌させることができるのか。今シーズンの戦い方を見守っていくしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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