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優等生たちを覚醒させよ! 今季“悪童”2人を加えた琉球ゴールデンキングスの目論見 

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季琉球ゴールデンキングスに加入した並里成選手(左)と橋本竜馬選手(筆者撮影)

 昨シーズンはリーグ最強のディフェンスを誇り西地区を制した琉球ゴールデンキングス(以下、キングス)。先週末行われたアーリーカップでは、アイラ・ブラウン選手、ドゥワン・サマーズ選手と2人のビッグマンを欠きながらも他をまったく寄せつけず、『B.LEAGUE EARLY CUP KANSAI』で優勝を飾った。

 決勝で対戦した大阪エヴェッサの穂坂健祐HCは「リーグを代表するディフェンスはフィジカルも強いですし、個々のプライドというか個々で絶対に負けないという気持ちでやっているというのを肌で感じた」と完全に脱帽している。

 今シーズンも西地区で圧倒的な力を発揮しそうなキングスだが、昨年はチャンピオンシップで千葉ジェッツに敗れ準決勝で敗退しており、彼らの目標は地区連覇というよりさらに高みを目指しているのは明らかだ。そうした思いが今シーズンの戦力に如実に現れている。すでに岸本隆一選手という確固たるPGが存在していたにもかかわらず、橋本竜馬選手、並里成選手というリーグを代表するPG2選手を迎え入れたのだ(ちなみに並里選手は3年ぶりのキングス復帰となる)。

 アーリーカップでの起用法を見ている限り、今シーズンはゲームのほとんどの時間帯でPG2人をコートに置くことになりそうだ。だがアーリーカップでもPG3選手がそれぞれに躍動し、相手チームとの身長差などものともしていなかった。佐々宣央HCもPG2人を大歓迎し、様々な面でチームに好影響をもたらしてくれることを大いに期待している。

 「並里が入ってるとか、今日は(ジョシュ)スコットもそうですが、アップテンポなゲーム展開というのが去年になかったところが出てきたというのが、バスケットとしてはレベルアップしてくるのかなと…。本当に中に切り崩して3本ポイントとか、元々(シュートが)入るチームなのでよりいいシュートを打てるということでは、そこは期待してもらえばいいのかなと思ってます。

 ただバスケットだけじゃなくて、今年は橋本竜馬もしかり、自己表現の高い奴が入ってきてくれた。逆に去年までいた選手たちは静かなので、そこに押されないように自己表現してほしいという中で、もっと人間味のあるチームにしていきたいというのが優勝に繋がっていくと僕は信じているので、僕らも含めてもうちょっとプロフェッショナルになることが求められているところだと思うので、そういった意味で選手、コーチ全員でバスケットの技術を積み重ねていくのもそうですけど、人間として選手として質を上げていくいうのも今年の課題ですね」

 確かに昨シーズンの佐々HCは「選手が大人しすぎる」と繰り返すとともに、選手として成長していく上でも自己表現が必要だとも力説していた。まさに加入した2選手は、従来のチームに与えるべき格好のカンフル剤なのだ。学園ドラマでいえば、優等生ばかりが揃った進学校に突然転校してきた“悪童”のようなもので、これまでにない価値観をもたらしてくれる存在といえるだろう。もちろん橋本、並里両選手もキングスで何をすべきなのか、明確な意思を抱いて加入している。

 まずは橋本選手だ。

 「並里選手が来るというのは聞いていました。でも自分自身がどうしたいのかという方が重要であり、そちらに重きを置いていたので…。普通の人だったら(PGが3人揃ってしまうことを)どう考えるか分からないですけど、自分のバスケットボール人生を考えた時にここでやった方がいいのかなとか、そういう経験をしてみたい気持ちもあったし、自分の中では気にならなかったというのがありますね。

 今回試合をやってみても本当だったらもっと出られないと思ったんですけど、今日の出来からしても全然良くなかったですし、そこはシビアな世界だと思っているし、でもそれ自体自分が望んだことだし、そういった感情だったり気持ちの中でやっていくことが、選手として人間として成長していくのかなと思っています。

 (所属していた)三河というチームは本当に素晴らしいチームだったと思いますし、強いですし環境も整ってました。その中でそのメンタリティというのをそこだけで押さえていくのはバスケットボール全体として勿体ないなという風に感じたし、そのメンタリティや自分の持っているものを他のチームに伝えたいという思いが、7年間で培われたというか…。そうした感情や気持ちがミックスされ、新しい一歩を踏み出して自分自身がどうしていくのかを考えた時に、キングスが自分の心をワクワクさせるというか、自分の力を発揮したいなというか、そういう気持ちにさせてもらえました」

 次に並里選手だ。

 「(オフに)佐々さんとたまたま会って、お互いバスケが好きなのでバスケの話になった時に、去年のプレーオフの千葉戦の話が出てきて、お互い『ここが足りないよね』とか『こうしたいよね』というのが一致したというか、それが本当に僕がしたいバスケでしたし、HCが求めていたバスケに僕がフィットするとお互いが共通して感じることができました。

 僕自身も自分のいいところを出していかないとチームのプラスになっていかないと思っていますし、HCもそこはすごく理解してくれて、1人1人のいいところをコートで出せるようなチームづくりをしているので、そこは本当にチームメイトだったり、HCに感謝しています。僕のスパイスというか、そういうのが勝ちには重要になってくるかなと思っていて、真面目ないい選手が多い中、僕みたいな悪い選手がうまくバランスよくやっていきたいなと思います。

 3年前にキングスを離れて、そこからどうやって選手、選手に自分の思いだったりを伝えていけるのかをこの3年間で勉強してこられたので、それはキングスに戻ってきてからも、強くいった方がいい選手だったり、そうじゃなく柔らかくいった方がいい選手だったり、それぞれ選手がいるので、そこはうまくできているのかなと思います」

 2人を加えたチームキャプテンの岸本選手も十二分の手応えを感じており、やや興奮気味に以下のように話している。

 「(3人のPGの)役割を出す場面がそれぞれ違うタイミングで持ち味を出して、それがチームにとっていい循環になっていた感覚を持てました。必要な時に必要なことができる選手が3人もいれば、純粋にカードを多く持っているような状態なので、この(アーリーカップ)2日間で自信も手応えもあるんですけど、これ以上にもっとよくなるという感覚もすごくあるので、そういう意味ではもっと期待してほしいですね」

 学園ドラマならば、悪童たちがハプニングを巻き起こしながら優等生たちに確かな刺激をもたらし、お互いが人間として成長し1つにまとまっていくという展開になっていくのだろう。果たして橋本、並里両選手を加えた今シーズンのキングスは、チームとして覚醒することができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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