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今もくすぶり続けるNFL国歌斉唱問題が新たな対決構図へ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
NFLと選手会が連名で発表した声明(NFL公式ツイッターから引用)

 今月11日からチームごとに始まっていたNFLのトレーニングキャンプが27日に全32チーム出揃い、2018シーズンが本格的に始動する中、昨年ドナルド・トランプ大統領を巻き込み社会問題まで発展した国歌斉唱問題が今なおリーグ内でくすぶり続けている。

 一昨年からNFLの一部選手が人種問題への抗議活動として、NFL公式戦で実施される国歌斉唱中に片膝をつく行為を始めそれが昨年も続いていたことで、トランプ大統領が政治集会の演説で「NFLのオーナーたちはそんな選手たちをフィールドから追い出すべきだ」と猛批判を始めたのを機に、選手たちが猛反発。それ以降片膝をつく選手の数は広がり、さらにNFLの枠を超えてNBAやMLBなど他のアスリートたちにも拡大する社会問題に発展していった。この一連の流れは本欄でも紹介している通りだ。

 結局この問題は根本的な解決をみないまま2017シーズンは終了していたのだが、今なお解決の糸口が見つかっていない。というより、問題が発生した当初の対決構図とは変わり、リーグ内での対決へと変化し、より解決が難しくなってきているのだ。

 改めて説明するが、国歌斉唱問題が表面化していた当初は「トランプ大統領 vs NFL」という構図だった。選手やリーグへの批判を強めていくトランプ大統領に対し、リーグも選手側に回り、ロジャー・グッデル=コミッショナーや各チームのオーナーたちもリーグとしての団結を訴え、中には選手とともに片膝をつきながら国歌斉唱に参加するオーナーも出現したほどだった。しかしトランプ大統領の批判は止むことはなく、さらに一般社会も賛否両論に分かれリーグ批判者も少なくなかった。早期解決を願うリーグとしては今後の対処に苦慮し、単に対決姿勢を維持するのではなく誰もが納得できる解決法を模索していた。

 そんな中今年5月に開催されたオーナー会議で、国歌斉唱に関する新ルールが全会一位で承認された。これによりフィールドにいる選手およびチーム、リーグ関係者はすべて国歌斉唱時に起立しなければならなくなった。ただし国歌斉唱に参加するのは強制ではなく、起立したくない選手はロッカールームで待機できるという特例措置も盛り込まれていた。これならトランプ大統領の主張を受け入れられ、しかも起立したくない選手も救済できるものだった。

 しかし選手会はこの新ルールに納得しなかった。今月10日に異議申し立てを行い、以下のような声明を発表した。

 要約すれば、NFLが承認した新ルールは選手会からの意見確認をおこなっていない一方的なもので、統一労働協約に一致せず、選手の権利を侵害しており、今後選手会との話し合いを求めたいというものだった。これにより国歌斉唱問題は新たな局面を迎え、「NFL vs 選手会」への構図へと変わっていったのだ。

 この異議申し立てを受けたNFLは選手会との話し合いに応じ、27日にミーティングを実施。終了後は扉写真にあるように、リーグ、選手会が連名で声明を発表したのだが、「今後とも話を続けていく」という短いもので、現時点で何ら解決に繋がっていない。

 といっても9月6日のシーズン開幕を前に、8月2日からプレシーズン試合がスタートする。残された時間は決して多くない。果たしてリーグと選手会の間で解決策を見出すことができるのか。また解決するまで選手会及び選手は国歌斉唱でどのような態度をとっていくのか。さらに頑なな選手会に対しトランプ大統領はどんな批判を繰り出すのか。まだまだ目が離せそうにない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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