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ヤンキースが空港停泊の機内で一晩を過ごすことになったワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
雨天中止になったナショナルズ対ヤンキース戦(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLB公式サイトが、ヤンキースにまつわる悲しいアクシデントを紹介している。

 ヤンキースは現地15、16日に、ワシントンDCでナショナルズとの交流戦が組まれていた。田中将大投手が先発した初戦は雨天のため6回途中で順延となり、16日に再開され、さらに16日分の試合を実施することになった、しかし当日の天候も雨が降り続き、結局この日も中止が決定。ヤンキースは次の遠征地のカンザスシティに移動するはずだった。

 ところが、だ。天候不順にチャーター機の機材トラブルが重なり、ワシントンDC郊外にあるダレス空港を離陸することができなくなってしまったのだ。本来なら緊急の宿泊先を用意し、そちらで待機することになるところだが、この日はヤンキース一行を受け入れるホテルがみつからず、仕方なく機内で夜を明かすことになったというのだ。

 運良くロイヤルズ戦は18日からで試合への影響はなかったとはいえ、なかなかMLBでは珍しいアクシデントといえる。というのも、MLBでは遠征を円滑に行えるように、どのチームもトラベル担当者を常にチームに帯同させているからだ。彼らは通常の遠征の手配だけでなく、メジャー昇格やマイナー降格する選手たちの移動や宿泊場所も手配したり、時には選手のプライベートの旅行のアレンジもしてくれる。

 実は自分も一時期、某チームのトラベル担当のお世話になったことがある。その頃マイナーで調整していた、ある日本人選手の取材にたった1人で回っていたのだが、急きょメジャー昇格が決まり彼に同行して一緒にメジャーに合流することになった。その際彼には通訳がいなかったこともあり、チームからも要請されて手伝いをさせてもらうことになったのだ。合流したばかりだったので選手と一緒に監督、コーチ、チームスタッフといろいろ話をする機会を得たのだが、その中にトラベル担当も入っていた。

 いうまでもなく選手のメジャー昇格に伴い、自分のスケジュールもチームに合わせて大きく変更せざるを得なくなった。そんな時にトラベル担当に相談したところ手を差し延べてくれ、しばらくの間遠征先も含めて選手と同じホテルを用意してくれたのだ。MLBの宿泊ホテルは一定ランク以上でないといけない規則になっている。もちろん高級ホテルばかりだ。支払いは当然自己負担だが、それでもチームが契約している割安料金を利用できたのでかなりの恩恵を受けることができた。

 しかもトラベル担当は、もし喫緊に迫った遠征のフライトが予約ができないようなら、チャーター機にも同乗してもいいとまでいってくれていたのだ。結局フライトが確保できたため実現することはなかったが、今でも忘れがたい思い出になっている(というより、あの時嘘をついてでもチャーター機に乗っておけばと後悔している)。

 このようにトラベル担当は航空会社やホテル・チェーンなどと太いパイプを持ち、緊急事態にも対応できる状態を整えている。残念ながら今回のヤンキースの一件は不運が重なり、さすがのトラベル担当でも対応できなかったようだ。だが今回の一件で、選手たちを裏で支える様々な裏方さんがいることを紹介できる機会を得た。

 MLBの遠征はNPBから比べれば選手たちのプライベートが守られ移動も快適な一方で、チャーター機だからこそ通常の航空会社では運航しない時間帯での移動はあるし、時差をまたぐ移動距離、時間は半端ではない。少しでも選手の負担を減らすため、日々トラベル担当は奮闘しているのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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