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好調続く日本ハムは今シーズン新たな投手王国を築くことができるか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
若手投手の意識改革に取り組んできた日本ハムの吉井理人投手コーチ(筆者撮影)

 ここまでパ・リーグは強力打線を武器に西武が快進撃を続けているが、その陰で戦前の予想に反し日本ハムが善戦を続けている。シーズン開幕直後は苦戦が続いたが、4月5日に勝率5割に戻すとそれ以降はしっかり勝ち越しを維持し、まだ序盤とはいえ西武、ソフトバンクとともにAクラスを形成し始めている。

 その好調を支えている要因の1つが投手陣の躍進だろう。昨年はチーム防御率がリーグ4位(3.82)に低迷していたが、現在は西武、ソフトバンクと互角に渡り合っている。圧倒的な投手力(チーム防御率3.06でリーグ1位)を誇り日本一に輝いた一昨年の勢いを取り戻したかのようだ。中でも顕著なのが、昨年部門別防御率でリーグ6位(4.20)に終わっていた先発陣の台頭だ。

 昨シーズンは投球イニング数が150を超えたのが有原航平投手しかおらず、入れ替わりで先発ローテーションを維持していた状態だったが、今シーズンは有原投手が右肩炎症で多少出遅れたものの、ここまで高梨裕稔投手、加藤貴之投手、上沢直之投手に加え、新加入のニック・マルティネス投手がそれぞれ安定した投球を披露しており、しっかり“5本柱”を確立できている。吉井理人投手コーチもその辺りを評価している。

 「投手陣はみんな頑張っているんですけど、特に先発の人たちが6回もしくは7回をしっかり投げてくれているので、ブルペンの準備もしやすいですし、投手陣の安定感みたいなものが…。まだ信用はしてないですけど(笑)、今のところどの先発ピッチャーも試合を作ってくれているので、そこが調子いい原因かと思ってます」

 ここまで順調とはいえ、MLBでも実績があるマルティネス投手は来日1年目。さらに他の先発投手も最年長の高梨投手でさえ26歳と若手ばかり。吉井コーチとしては、誰か1人に先発の柱を託すのではなく、先発陣全員で刺激し合いながら投手陣を牽引してくれることを願っている。その理想型は吉井コーチが現役時代にMLB挑戦していた当時のアトランタ・ブレーブスだという。

 「さっきもいいましたけど、まだこれが本物かどうかは解らないんですけど、いつも例えに出している90年代後半のブレーブスのマダックス、グラビン、スモルツ(当時はMLB最強の先発トリオといわれた)…。あれは誰が柱というわけではなかったじゃないですか。それぞれみんな良かったので、ああいう風になればいいなと思ってます」

 吉井コーチはそんな理想的な先発陣を築き上げるため、昨シーズンから有原投手、高梨投手、加藤投手の3人に対し、登板翌日に個別面談を行い、自分自身で投球を振り返る機会を与え、彼らの成長を促す作業を続けてきた。今シーズンはこの3人に上沢投手を加え、現在も継続しているのだが、その作業は少しずつ成果として現れている。

 「テーマにしていることが振り返ることによって客観的に自分を知り、自分の強みを知るということなんですけど、(去年から続けている3投手は)自分のピッチングが解ってきて、なおかつそれをマウンドで表現できるようになりつつあるのかなと思いますね。

 (今年から始めた)上沢は自分の強みを出したりするのはまだできていないんですけれども、振り返り方がすごく上手いというんですかね。ちゃんと客観的に見る力があって自分のパフォーマンスを表現できるので、初めて振り返りをする割りには上手いです」

 先発陣がいい方向に進んでいる中、吉井コーチが今気に懸けていることの1つが中継ぎ陣の整備だ。ほぼ昨年から陣容が入れ替わった状況で、新たな継投リレーを確立していかねばならない。現在は勝ち試合で8回に石川直也投手、9回をマイケル・トンキン投手という継投が固まってきているが、それ以外は未知数が多い。

 「ブルペンは宮西(尚生投手)以外全員入れ替わった感じがあるので、すべてですよね。勝ちパターンもそうですし、ビハインドの試合を立て直す、いわゆるチームB(吉井コーチは勝ちパターンで投げる主力中継ぎ投手をチームA、負け試合で経験を積ませる中継ぎ投手をチームBと表現する)もです。

 6回、7回のところは西村(天裕投手)だけではきつくなってしまうので、宮西もいますけど、そこに1点ビハインドから勝ちまでちゃんと投げられる玉井(大翔投手)や公文(克彦投手)ですね。2軍にも井口(和朋投手)、白村(明弘投手)、鍵谷(陽平投手)がいますけど、その辺がしっかり投げられるようになってくれれば、非常に分厚いブルペン陣ができるんじゃないかなと思います。

 実は去年から誰か突き抜けて成長してくれる選手が出てきてくれると思ったんですけど、リリーフ陣からは出てこなかったので、今年は誰かいるんじゃないかと見ているんですけど。それ待ちですね」

 そんな中で吉井コーチが期待を寄せているのが、将来クローザーを任せられる日本人投手の台頭だ。

 「これは個人的な思いもあるんですけど、クローザーは日本人の方が長くできるので…。外国人は活躍するとすぐにいなくなってしまうから、その都度誰かを考えないといけないのでチームも落ち着かないので日本人って思ってます。シーズン終わりか来年には日本人の誰かがクローザーになっていればいいなと思います」

 現時点ではその有力候補が石川投手になるのだろうが、開幕当初から任されていたクローザーの座をトンキン投手に譲ってしまった。だが今でも彼に対する期待は大きい。

 「経験も浅いですし、技術も実力もまだ持っていないので、そこはゲームで投げながらなので。たぶん良かったり悪かったりの繰り返しになると思うんですけど、ちょっとずつ前には進んでいると思います。

 展開という意味ではクローザーの方がチームの流れに乗りやすいので簡単なんですけれども、8回というのはゲームがどっちに転ぶか解らないじゃないですか。結構打順もいいところに回ってきやすいので、流れ的には逆に難しいんじゃないかと思ってるんですよね。ゲームの流れを感じながら投げられるにはすごくいい修業の場になっているんじゃないかなと思いますね」

 まだ吉井コーチの中で確固たる投手陣が確立できているわけではない。だが今シーズンは思い描いている方向に進んでいることは間違いなさそうだ。

 「ここまでは順調です。ただ若いし経験がないので、たぶん大失敗や反動がくると思うんですけれども、その時に乗り越えられる練習を考え方っていう意味でも技術的な意味でも去年までにしてきたつもりなので、そこからが勝負になると思います」

 今シーズンも吉井コーチの手腕に注目していきたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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