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初登板&初勝利を飾ったアンドリュー・アルバースに感じた“遅咲き”ならではの魅力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年は8月下旬にマリナーズに移籍し5勝を挙げたアンドリュー・アルバース投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今シーズンからオリックスに加入したアンドリュー・アルバース投手が4日のロッテ戦に初先発し、6回を投げ3安打1失点8三振3四球の好投を演じ、チームに勝利をもたらすとともに自らも初勝利を挙げることに成功。最高のスタートを切った。

 NPB公式戦初登板ということもあり、立ち上がりはやや力んで制球力を乱す場面もあったが、初回に四球絡みで失点を許しただけでそれ以降はロッテ打線に付け入る隙を与えなかった。

 「いいスタートを切れたのは最高だし気分はいいよ。チームに貢献できたことで、チームに一員のなれた気分だ。攻撃陣も後押ししてくれたし、ワカツキ(若月健矢捕手)が本当にいいリードをしてくれ、自分を助けてくれた。

 まだ日本の打者の情報があまりないからね。ビデオをチェックしワカツキと一緒にゲームプランをたて、お互いの考えがしっかり合致して彼のリードに任せることができた。そのお陰でリズムを掴んで、それを維持することができたよ」

 相手をねじ伏せるようなパワーはない。速球の球速はほぼ130キロ後半といったところ。日本の投手と比較してもやや見劣りするだろう。それでも4日の登板では打者を翻弄し続けた。自分の投球を最大限に生かせる投球術がある証拠だろう。

 「そんなに速いボールは投げない。重要なのはコントロールだ。真っ直ぐはフォーシームとツーシーム。それにカッター/スライダー、カッターとスライダーの中間的な感じかな…、あとスローカーブ、チェンジアップを投げる。

 とにかく打者に対しどれだけ質の高い投球ができるかだ。すべての打者が違ってくるように、そのアプローチも少しずつ違ってくるものだ。その中で自分の狙い通りの投球をすれば、成功するチャンスも生まれてくる。それが打者に対する考え方だ。とにかく(打者に)自分の弱点に付け入る隙を与えず、強みを最大限に発揮することだ」

 アルバース投手が説明するように、カッター/スライダーはいわゆる“高速スライダー”ともいうべきもので、速球とあまり球速が変わらないのにカット以上に大きな曲がりがある。チェンジアップも速球の球筋に近くそこから変化していくので、打者としてはかなり厄介ではないだろうか。いずれにせよ米国では珍しくない技巧派左腕だ。

 だがアルバース投手のオリックス入りが決まった時から個人的に興味があったのが、彼の“遅咲き”ともいえるキャリアだ。メジャー初昇格は27歳とやや遅く、しかもメジャーに定着することができずマイナーとメジャーを往復する日々だった。そんな状況の中、31歳で迎えた昨シーズンが自身にとって最高の成績を残しているのだ。

 開幕はブレーブス傘下の3Aで迎え、26試合(うち先発17試合)に登板し12勝3敗、防御率2.61の好成績を残すと、シーズン途中でマリナーズにトレードされる。マリナーズではメジャーに昇格し、9試合(うち先発6試合)に登板し5勝1敗、防御率3.51でシーズンを締めくくっている。このままメジャーに残留してもおかしくない内容だったのだ。

 「昨シーズンは自分のキャリアの中でベストシーズンだったと思う。本当にすべてが上手くいったという感じかな。そういう時はいい当たりされても打者の正面を突いたりするからね。でも昨シーズンの成績が自信になったのは間違いない。

 別に何かを変えた訳ではない。ただ左打者に対し多少苦手な面があったので、プレートの踏む位置を変えながら投げるようにしたんだ。そうしたら内角球にいい角度がつくようになったんだ。それは今でも有効に使えていると思うし、引き続きやっていこうと思っている。

 確かにマリナーズに残るという選択肢もあった。その場合は残された先発1枠を争う立場になっていただろう。ただ自分はまだオプションが残ってたけど(簡単にマイナーに降格させることができる選手ということ)、先発を争う他の投手たちはオプションがなかったからね。またマイナーに回っても自分はある程度年齢が上の投手なので、メジャーに昇格するには若手有望選手以上の成績が必要になってくると考えた。それ以上に日本に行くことが素晴らしいチャンスだと思ったし、後悔はしたくなかった」

 実はアルバース投手は2014年にKBOに在籍した過去があるのだが、残念ながら負傷も重なり期待通りの投球をすることができなかった。だがその際に外国でプレーする難しさと失敗を経験しているからこそ、ベストシーズンを送った翌年にNPB挑戦を決めた今回はこの地で成功したいという思いも強いはずだ。

 「違う国にいけば文化も違ってくるし、そこに順応していくのも野球以外で重要なことだ。ただ野球に限れば大きな差はない。特に投手はどこで投げようとしっかり自分の投球をしなければ成功できない。

 今のところ日本の生活をすごく楽しんでいる。素晴らしい人たちに囲まれているし、皆が敬意を払ってくれる。最高にいいところだ。時間ができればあちこち探検してみたいと思っているくらいだ」

 30歳を過ぎても投球を進化させているアルバース投手を見ていると、MLBで49歳まで現役を続けた同じ技巧派左腕のジェイミー・モイヤー投手とダブってくる。彼も32歳まで投手として苦悩の日々を過ごした後、33歳からその才能を開花させ、38歳と40歳で年間20勝を達成している。

 果たしてアルバース投手は日本でモイヤー投手のような存在になれるのか。NPBでもパワー重視の傾向が強くなっている中、彼の熟練技がどこまで通用するのか気になるところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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