Yahoo!ニュース

代表復帰した永吉佑也が代表戦2試合で味わった明と暗

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
代表復帰し先月22日のチャイニーズ・タイペイ戦に出場する永吉佑也選手(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 フリオ・ラマスHC就任後初の代表入りを決めた永吉佑也選手。198センチ、115キロを誇る日本人ビッグマンは今シーズンから京都ハンナリーズに移籍し、十分な出場機会を得ながら外国人選手とマッチアップしてきた。その経験を武器に、2月22、25日に実施されたFIBAワールドカップ2019アジア地区1次予選(window2)のチャイニーズ・タイペイ、フィリピン戦に臨んだ。

 だが決死の覚悟で臨んだ日本代表ではあったが、結果は2連敗(window1と合わせて4連敗)と最悪のシナリオに終わってしまった。戦前からある程度予想されていたこととはいえ、この2試合でもリバウンド戦で相手チームに競り負け、相変わらず日本代表の弱点を露呈するかたちとなった。

 それではインサイドの強化を期待された永吉選手は十分な働きができなかったのか。彼の成績だけを見れば、チャイニーズ・タイペイ戦では17分25秒の出場時間を得て、4得点、3リバウンドを記録し、フィリピン戦では出場無しと、決して満足できるものではなかった。だが数字だけで割り切れない部分があるように思う。

 出場したチャイニーズ・タイペイ戦を振り返ってみたい。第2クォーター途中から出場した永吉選手は、主に帰化選手のクインシー・スペンサー・デービスIII選手とマッチアップすることが多かった。デービス選手はこの試合でチーム最長の36分32秒に出場し、12得点、11リバウンド、6アシストを記録する活躍でチームの勝利に貢献している。明らかに日本代表は彼を縦横無尽に機能させてしまった。

 だが試合を観戦していた限り、永吉選手とマッチアップしている時のデービス選手は苦しんでいたように見えた。これは単なる主観的な意見ではなく、データ上でも明らかになっている。公式サイトに掲載されている試合結果の「PLAY BY PLAY」を改めて調べてみると、コート上で永吉選手と一緒だった時間帯のデービス選手は、無得点、2リバウンド、2アシストに留まっているのだ。もちろんコート上で四六時中永吉選手がデービス選手についていることは不可能だが、それでも彼がコートにいる時のデービス選手は満足に仕事ができていなかったのだ。

 その辺りのところを、永吉選手自身はどのように感じているのだろうか。

 「特にディフェンスですかね。ハンナリーズに来て出場機会を得るようになったことで、外国人選手とマッチアップする機会が増えるようになって、前に代表入りした時より外国人選手とマッチアップしていて物怖じしなくなったというか自信がついたように感じました。最近特にリーグ戦で手応えを感じた中で台湾戦を迎えることになって、台湾の選手の中でも帰化選手を守るということになって、その中で自分的には手応えもありました」

 すべてにおいて完璧だったわけではないが、チャイニーズ・タイペイ戦でのディフェンスは永吉選手もある程度納得できていた。しかし永吉選手は続くフィリピン戦で一度もコートに立つことはできなかった。昨年11月に東京で対戦した際はリバウンドで46対48とほぼ互角に渡り合っていた相手に、今回は帰化選手のアンドレイ・バッチ選手にインサイドを支配され、彼個人に16リバウンドを奪われた他チーム全体でも29対47と大差をつけられての敗北だった。永吉選手としてもやり切れない思いがあるはずだ。

 「(フィリピン戦の)試合直後はチームも負けたし、自分の中でフラストレーション的なものを感じたりしていましたけど、振り返ってみると台湾戦で出してもらえたにも関わらず、何かが足りなかったんだと思います。自分には何で出してもらえなかったのかよく解らないんですけど、少なからず出してもらえたらなというのが正直なところです」

 永吉選手がどんなに悔しがったところで、リバウンド戦で一方的な展開になりながらもラマスHCが彼をコートに立たせようとしなかった事実を変えることはできないし、その事実と向き合っていくしかない。本人が話しているように、チャイニーズ・タイペイ戦でのパフォーマンスでは同HCを満足させる“何か”が足りなかったのだ。

 まだ永吉選手の中で明確な答えが見つかったわけではない。ただ自分自身がまだまだ進化していかねばならないことだけは十分に承知している。チャイニーズ・タイペイ戦後もラマスHCの戦術面での理解が足りていない部分があると感じ、コーチ陣から教えを乞うなどして短期間ながら努力も怠らなかった。もちろんそんなものでは補足できるのではない。6月に再開される1次予選(window3)で再びラマスHCに呼んでもらうため、今後もBリーグで研鑽を重ねていくしない。

 「やはり何が足りなかったと思うし、その何かを、その信頼を得るためにもリーグ戦で自分が結果を残さなければいけないとは思っています。ラマスにも解るくらい、自分が日本一のビッグマンだということを証明しなきゃとは思います。太田さんとかアイラ、竹内譲次さん、公輔さんは長く代表で経験も積まれている人たちなので、ラマスとも僕より長くやっているので(僕以上に)信頼は絶対にあると思いますし、いざとなったら彼らを使うだろうなと僕もラマスの気持ちになれば十分理解できます。

 ただ僕の同年代の田中大貴だったりとか宇都(直輝)や(張本)天傑が凄い試合に出るようになっていて、僕も試合に出たいという思いが強いです。そのためにはリーグ戦で結果を残すしかないです。フィリピン戦に関しては何でという気持ちもありましたけど、やはり過去を振り返ってみると理解できない部分よりも理解できる部分の方が多いです。

 僕にとって本当に必要なのは経験だと思ってますし、その中でハンナリーズに来て(浜口)炎さんも外国人選手とマッチアップしなさいと言ってくれるので、自分にとって成長するチャンスだと思ってますし、どんどん物怖じせずにやっていけば自分の成長にも繋がると思います」

 今回の結果はともあれ、永吉選手の中では前回日の丸を背負った時以上に手応えを感じることができた。今は立ち止まっている時ではない。更なる高みを目指してコート上で自他ともに認められるプレーを披露していくしかないのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事