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マーリンズら4チームを提訴したMLB選手会に勝ち目はあるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBに対し4チームを提訴した選手会のトニー・クラーク専務理事(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 レイズの地元紙『Tampa Bay Times』が現地27日、選手会がMLBに対しレイズら4チームを統一労働協約違反で提訴したと報じた。記事によれば、選手会も提訴を認め、今月23日にMLBに書類を提出したということだ。

 提訴されたチームはレイズの他にマーリンズ、アスレチックス、パイレーツの3チーム。いずれもこのオフは選手獲得に消極的だったばかりか、マーリンズとパイレーツは主力選手たちを次々に放出したことで、MLBから与えられる分配金を有効に使っていないのではないかとし、選手会は4チームが統一労働協約に違反していると主張している。

 このオフはFA市場が歴史的な停滞を見せ、スプリングトレーニングが始まっている現在に至っても70名以上のFA選手たちが所属先が決まっていない状況だ。この事態を受け選手会のトニー・クラーク専務理事も、契約に積極的でないチームに対し批判する発言をしていた。そんな状況下で今も大きな改善が見られず、提訴に踏み切ったのだ。

 確かに選手会が主張するように、各チームは与えられた分配金を使って“on-field product(球場全体の生産性)”を改善していくことが統一労働協約に定められている。しかしあくまで球場全体の生産性であって、FA選手の補強などの年俸総額を引き上げるためだけに使用する必要はないのだ。

 同紙の記事によれば、昨シーズンのレイズはMLBの中でもトップクラスの約4500万ドル(約48億円)の分配金を受け取っていると見られるが、それでもスチュアート・スターンバーグ=オーナーは同紙に対し、以下のように反論(抜粋)している。

 「我々はチームを引き継いでからずっと公明正大に運営してきた。なぜ我々がルール違反していると提訴されたのか驚きでしかない。何が起こったいるのか理解できてないし、他のチームも同様だろう」

 さらに今回の提訴を受け、パイレーツのフランク・クーネリー球団社長も現地27日に声明(同じく抜粋)を発表している。

 「今回の選手会のパイレーツに対する提訴は明らかに根拠がないものだ。もし選手会が引き続き何のメリットのない不平を続けるのであれば、我々は喜んで仲裁者の前で申し開きをする用意がある」

 2チームだけではない。提訴について確認を求められたMLBもTampa Bay Timesに声明を送り、「提訴は受理しているが、何のメリットがないと考えている」としている。

 繰り返すが分配金の使用が選手補強だけに限されているのならいざ知らず、ルール上は多目的に使用できるのであるから、今回の提訴は誰の目から見ても無理があるだろう。オフのFA市場停滞も、その根本にあるのは2016年12月に合意された統一労働協約だとされており、その交渉にあたった選手会そのものに責任の一端があるはずだ。決してMLBや各チームだけの問題ではない。

 MLBが指摘するように今回の提訴に有益性があるとは思えないし、これにより残されたFA選手の契約が一気に進展することもないだろう。どうやら選手会は活路が見出せない袋小路に足を踏み入れてしまったような気がする。

 まだまだこの問題は尾を引くことになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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