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レンジャーズが2年ぶり復帰のリンスカムを獲得した理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB公式サイトでレンジャーズ入りが報じられたティム・リンスカム投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLB公式サイトは現地27日、レンジャーズがサイヤング賞受賞2度の実績を誇るティム・リンスカム投手と契約合意したと報じた。現時点でまだチームは正式発表していないが、同サイト以外にも地元紙などが後追い報道をしており、2016年以来2年ぶりの球界復帰はほぼ間違いなさそうだ。

 2006年にジャイアンツからドラフト1巡目指名を受けると、翌07年にはMLB初昇格を果たした逸材。身長わずか180センチながら150キロを超える速球とキレのあるチェンジアップで勝負する本格派で、08年からはすぐにエースの一角を担うと、10、12年にはチームのワールドシリーズ制覇に貢献し、個人的にも08、09年と2年連続でサイヤング賞を獲得するとともに08年から4年連続オールスターゲームに出場するなど、MLB屈指の右腕として君臨した。

 だが小さい身体でフル回転で投げ続けた影響もあり徐々に故障を抱えるようになると、12年から徐々に成績も下降線を辿り、15年は臀部の故障もあり登板数はたった15試合に留まり、その年のオフにFAとなったがシーズン開幕しても所属先を見つけることができなかった。何とか5月にエンゼルス入りを果たしたが、それでも臀部の故障を抱えたまま思うような投球ができず、8月の段階で40人枠から外されてしまった。

 それでもその年の9月に臀部の修復手術を受け、現役続行に意欲を示していた。昨年は無所属のまま再起を図っていたが、今月上旬に複数チームを集めて投球を披露し、契約先を探していた。レンジャーズもリンスカム投手の投球を調査に行ったチームの1つで、『Dallas Morning News』のエバン・グラント記者によれば、1年間のブランクのある投手ながら年俸100万ドル(約1億円)+インセンティブという破格のメジャー契約で合意した模様だ。

 それにしても2月に入ってからのレンジャーズは、投手補強にかなり熱心に動いている。リンスカム投手の他にバートロ・コロン投手、ジェシー・チャベス投手、エディンソン・ボルケス投手と、ベテラン先発3投手を次々に獲得している。ボルケス投手に至っては、まだトミージョン手術後のリハビリ中で実戦復帰できていないにも関わらずだ。

 それではなぜレンジャーズはすでに先発投手の頭数が揃っているのに、実績あるベテラン先発投手に次々に手を伸ばしたのか。地元報道によるとリンスカム投手はリリーフ投手として起用されるようだが、状況次第では先発復帰も期待できる投手だ。この補強の理由を考えるには、やはり現在のMLBの潮流に注目するしかない。

 大谷翔平選手の獲得で、すでに今シーズンから6人ローテーションの採用を明言しているエンゼルスだが、他のチームも従来の5人ローテーションを厳格に守れなくなってきている。例えば昨年快進撃を続けワールドシリーズ進出を果たしたドジャースは、ナ・リーグ1位のチーム防御率を記録する一方で、先発陣は故障やトレードなどがあり、シーズンを通して計10投手を先発で起用している。

 しかもこれまで主力先発投手のノルマと言われてきた「30試合以上、200イニング以上」を果たした投手は誰1人存在しないのだ。それでも尚リーグ1位の投手成績を残すことができたのだ。

 これは現在のMLBが大黒柱を中心に5人の投手でローテーションを回すことが難しいことを意味している。故障者や疲労を抱える投手が出現しても、それを穴埋めできる戦力が必要になってきたということだ。そう考えればレンジャーズの補強はすべて理にかなっていることが理解できるだろう。

 MLBの潮流は脈々と変化し続けている。今シーズン大谷選手が成功を収めることになれば、MLBの先発ローテーションの既成概念はさらに見直されていくことになるはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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