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松井氏落選で再確認しておきたい米国野球殿堂の評価基準

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
野茂英雄氏に続き投票1年目で殿堂入りの資格を失った松井秀喜氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 2018年の米国野球殿堂入りの最終投票結果が現地24日に発表になり、チッパー・ジョーンズ氏、ブラディミール・ゲレロ氏、ジム・トーミ氏、トレバー・ホフマン氏の4人が得票率75%(得票数422)をクリアし、殿堂入りを果たした。その一方で、先に史上最年少で日本の殿堂入りを果たしていた松井秀喜氏が今年から投票資格を得ていたが、獲得数が4票に留まり、得票率が5%を下回ったためわずか1年で資格を失ってしまった。

 日本の一部メディアでは松井氏の殿堂入りを期待させるような内容の報道もあったが、今回の結果はMLB関係者からすれば予想の範囲内だった。というのも、4年前に投票資格を得ていた野茂英雄氏も得票率1.1%に留まり、やはり1年で資格を失っていた。その際に日本でも米国野球殿堂の評価基準について各方面から解説がなされていただけに、期待を持たせるような報道の方がむしろ奇っ怪でしかなかった。

 自分も4年前に野茂氏の落選について解説させてもらった1人だが、改めて米国野球殿堂の評価基準について再確認しておきたい。野茂氏が引退した翌年に野球殿堂の投票権を有している米国人記者たちに話を聞かせてもらったのだが、野茂氏が史上4人目の両リーグで無安打無得点試合を達成したこと(過去の3投手はいずれも殿堂入りを果たしている)と、日米通算200勝を踏まえた上で、1人の記者が以下のように話してくれた。

 「確かに(両リーグ無安打無得点試合達成は)素晴らしい功績だけど、米国野球殿堂(正式名称は『National Baseball Hall of Fame』)はあくまで“National(米国内の)”なんだ。やはり彼を評価する上で米国での実績で判断することになる。そうなると自分の中では十分なものとはいえないね」

 結局他の記者たちからもほぼ同様の答えが返ってきた。つまり野球殿堂の投票権を持つ記者が野茂氏を評価する場合、MLB在籍12年で通算123勝109敗、防御率4.24を残した投手でしかないのだ。如何に両リーグで無安打無得点試合を達成しようとも、誰の目から見ても殿堂入りするには通算成績が余りにも物足りないのは歴然としているだろう。

 同様に松井氏を考えてみよう。MLB在籍10年で、通算成績は打率.282、175本塁打、760打点と、決して突出している数字ではない。さらに最近選手の指標として使われる「WAR(Wins Above Replacement:代替選手と比較してどれだけ勝利に貢献できるかを示す数値)」を使って、今回殿堂入りを果たした3人の野手と比較してみよう(データは「Baseball Reference.com」から引用。キャリア通算のWARを示す)。

 チッパー・ジョーンズ氏  : 85.0(MLB在籍19年)

 ジム・トーミ氏      : 72.9(同22年)

 ブラディミール・ゲレロ氏 : 59.3(同16年)

 松井秀喜氏        : 21.3(同10年)

 如何だろう。殿堂入りしている選手と松井氏にはこれほど大きな差があるのだ。これが松井氏が4票しか獲得できなかった現実だ。同じ日本人として残念ではあるが、受け入れるしかないのだ。

 逆に日本では野茂氏や松井氏が殿堂入りしているように、日米での実績が評価されている。しかし自分がMLBを長年取材をしてきた中で、MLBとNPBを同等だと感じている米国人記者は誰1人として存在しなかった。今後も投票権を持つ記者たちはMLBだけの実績のみで評価していくことに変わりはないだろう。今後はそれを踏まえた上で投票資格を得た元日本人メジャー選手たちを判断していくしかない。

 だが悔しがる必要はない。今更説明する必要もないだろうが、もうすでに満票近い得票率で殿堂入りが決まっている日本人選手が存在している。

 イチロー・スズキ選手   : 59.6(同17年)

 とはいえ、まだまだ現役引退は後回しにして欲しいのは皆同じだろう。今年もグラウンドでイチロー選手の姿を見られることを期待したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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