素人でも見分けられるMLB公式球の変化
2017年シーズンのMLBは年間本塁打数が史上最多の6105本を記録した。過去の記録がステロイド時代といわれる2000年の5693本だったことを考えれば、驚異的なペースで本塁打が量産されたことがわかるだろう。
本欄でも何度か報告させてもらったが、シーズン開幕から本塁打が量産される状況下で、田中将大投手をはじめ多くの選手たちから公式球が変化したという証言が飛び出し、メディアからも“飛ぶボール”になったのではという疑念も沸き上がった。しかしMLBのロブ・マンフレッド=コミッショナーは問われる度に否定し続けた。
つい先日のことだが、ドジャースでトレーナーを務める中島陽介氏が一時帰国したのを聞きつけ、近畿大学の講義に招聘し学生たちにトレーナーの立場からMLBの最新事情について語ってもらった。その中で中島氏は、昨シーズンは投手の“blister(野球擁護としては指先のマメだけでなく爪の割れも含む)”発生が例年以上に多く、いろいろ大変だったという裏話を画像を交えながら紹介してくれた。
中島氏の証言だけでなく、公式球の変化に疑念を抱いた各メディアがシーズン中に様々な検証記事を公開している。そのうちの1つ『THE RINGER』が紹介しているデータでも、2016年からblisterを発生している投手の数が極端に増えているのがわかる。マンフレッド=コミッショナー就任2年目から増加傾向にあるということだ。
投手がblisterを発生するのは説明するまでもなく、ボールの縫い目に影響されるからだ。つまり急激にblisterの発生数が増えたということは、公式球の縫い目が変化したということになるはずだ。ボールの反発係数を調べるようなことは不可能としても、縫い目くらいなら素人でも比較できる。早速自宅にあったバド・セリグ前コミッショナー時代の公式球と現在の公式球を比較してみた。
扉写真を見てほしい。左が現在の公式球で右が5年前の公式球だ。見た目だけでも判断できると思うが、現在の公式球の方が縫い目が長くて大きくのが分かるだろう。これは見た目だけでなく、感触にも大きく変化しているのだ。
続いて上部の画像を見てほしい。縫い目が立体的にわかるように撮影したものだが、やはり縫い目が大きくて長い分、現在の公式球は以前のものより縫い目が高いのだ。自分自身でも目を閉じて2つのボールの感触を確かめてみたのだが、百発百中で現在の公式球を識別ことができた。それほど両者には違いがあるのだ。この差は間違いなく現在の公式球の方が指に負担がかかるだろうし、投手にblister発生者が増加しているのも仕方がないだろうことが理解できた。
もちろん縫い目の変化だけで本塁打が量産されるようになったと論じることはできない。本来なら専門家にしっかり反発係数の違いも計測すべきものなのだろう。しかしマンフレッド=コミッショナーは否定しているものの、素人でも公式球が変化しているのが判断できたという事実は無視できない。そしてその変化は多くの投手たちが証言しているように、間違いなく投手に悪影響を及ぼしているのだ。
2016年シーズンに大谷翔平選手は指のマメが潰れ長期間登板できない状態に追い込まれた。160キロを超える直球を投げるにはそれだけ指への圧迫がかかるのでこうしたリスクは常に伴うものだが、現在の公式球だとそのリスクがさらに高まることになる。
ボールの滑りだけでなく縫い目の違いにしっかり対応できるかも、来シーズンの大谷選手にとって大きなカギになりそうだ。