Yahoo!ニュース

エンゼルスが大谷翔平に感じた“ユニークな接点”とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
エンゼルスに入りを正式に表明した大谷翔平選手(写真:つのだよしお/アフロ)

 ポスティング制度を利用してMLB挑戦を決めた大谷翔平選手が滞在中のロサンゼルスで7チームとの直接面談を終えた結果、エージェントのネズ・バレロ氏の声明を通してエンゼルス入りを正式表明した。

 「ショーヘイは、本当に多くのチームがプレゼンテーションに参加するために費やしてくれた時間と努力に対し敬意を表するとともに、彼らのプロフェッショナルな姿勢に心から謝意を示している。最終的に彼はエンゼルスに強いコネクションを感じ、MLBにおける彼の目標を達成するのを手助けしてくれるベストなチームだと信じている」

 これを受けてエンゼルスも声明を発表し、大谷選手のエンゼルス入りを歓迎している。

 「我々はショーヘイ・オオタニがエンゼルスを選んでくれたことを光栄に思う。我々は交渉過程を通じて彼とのユニークな接点を感じるとともに、彼がエンゼルスの一員になってくれたことを嬉しく思っている」

 今回の大谷選手の決断は多くの人に衝撃を与えた。これまでの米国内の報道をチェックしていても、直接面談を行った7チームの中でもエンゼルスの下馬評は決して高くなった。たぶん本拠地球場やキャンプ施設などの球団施設に関しても、7チームの中で一番評価が低いはずだ。にも関わらず大谷選手は「マーケティング規模や時間帯、リーグに囚われることなく」(バレロ氏声明)、エンゼルスに対し“強いコネクション”を感じ、一方のエンゼルスも大谷選手に“ユニークな接点”を感じることになった。その背景にあるものは何なのか。

 その答えは11月11日にMLB挑戦を正式表明した記者会見にあるのではないか。大谷選手はあくまでチームの意見を聞いてからとしながらも、二刀流について「もう自分だけのものではない」と話し、MLBでも二刀流を続ける強い意志を示していた。そしてさらに以下のように受け答えしてた。

 「ファイターズでなかったなら、自分をここまで磨いてこれなかったと思いますし、自分との相性もすごくよかったと思います」

 「この5年間に自信を持っていいかなと思っていますし、教わってきたことに自信を持っています」

 「自分が決めた道に対してそこに向かって頑張っていけるかなと思いますし、この5年間迷うことなく進んで来れたのかと思います」

 つまり大谷選手はファイターズという素晴らしい環境の中で迷うことなく二刀流を磨くことができ、ここまでやってきたことに強い自負を抱いているということだ。これをMLBの舞台で続けるのであれば、ファイターズと同じような環境で、しかもチームも大谷選手の二刀流を心から必要としているチームを選ぶのが賢い選択になるわけだ。

 そこでエンゼルスのチーム事情を考えてみたい。まず先発投手は数こそ揃っているものの、過去に故障を抱えた選手が多い。来シーズンはエースとして期待されるギャレット・リチャーズ投手は右ヒジの負傷のため、この2年間はわずか12試合しか登板できていないし、3年前に16勝を記録しているマット・シューメイカー投手も右腕の異常でシーズン半ばに手術を受けている。今シーズンに関しては先発で30試合以上登板している投手は1人しか存在しない。

 つまり先発陣の数は揃っているものの故障明けの選手たちに無理をさせたくないというチーム事情もあり、大谷選手の加入でMLB初の本格的な6人ローテーションを組むことが可能になる。各投手27~30試合程度の登板で、イニング数も180イング程度に軽減できるわけだ。もちろんMLB初挑戦の大谷選手にとっても登板間隔が日本ハムに近い中5~6日で回せるため、相当な負担軽減になる。

 さらに打線においてはさらに深刻で、大谷選手のような左の長距離砲が喉から手が出るほど必要としている状況なのだ。今シーズンのチーム打率はア・リーグ14位の.243で、長打率には至っては.397でリーグ最下位に沈んでいる。しかも今シーズン20本以上の本塁打を記録している打者は3人しかおらず、そのうち左打者は1人だけ。強豪チームなら必ず存在する打線の核となる左の長距離砲が存在しないのだ。

 もちろん先発陣を6人で回せば、大谷選手は日本ハム同様にDHで出場することができる。ここ最近は負傷がちでDHの出場が多かった37歳のアルバート・プホルス選手もこのオフはいい調整を続けているらしく、本来の一塁での試合数を増やすことができそうな状況で、大谷選手がDHに入ることで確実に打線に厚みを増すことができるのだ。

 またエンゼルスのチーム構成は20代後半の選手が中心になっている。現在40人枠に入っている選手で34歳以上はジム・ジョンソン投手とプホルス選手の2人だけ。逆に大谷選手より若い選手は2人しかいないが、それでも同年代の選手中心なので大谷選手にとっては理想的な環境といえるだろう。

 これらを総合すると、現在のエンゼルスは大谷選手が身を置いてきた日本ハムとほぼ同じような環境で二刀流を続けることができるのだ。しかもチームとしても投、打ともに大谷選手の力を必要とし、是が非でも二刀流を続けてもらわなければならない状況なのだ。これも日本ハムとまったく同じ環境だ。これまで5年間二刀流を磨いてきた日本ハムとほぼ代わらない環境で、チーム、ファンが望む中で二刀流を続けられるチーム。これこそが大谷選手がエンゼルスを選んだ最大の理由なのだろう。たぶん他の6チームには、そこまで以上の“相性”を感じられなかったのではないだろうか。

 もし大谷選手のMLB挑戦がもっと先になりエンゼルスのチーム事情も変わっていたら、大谷選手の選ぶチームは別になっていたかもしれない。まさに今この時だからこそお互いが結びついた結果なのだろう。

 とにかく明朝の入団会見での大谷選手、エンゼルス双方の発言内容に注目したい。 

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事