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Bリーグが抱える現レフリー制のジレンマ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
2年目のシーズンも各地で質の高いプレーが続くBリーグだが…

Bリーグの希望に満ちた将来性

 2年目のシーズンを迎えたBリーグを開幕からほぼ毎週のように現場で取材する機会を得ている。長年外国に滞在し、これまで「全国実業団バスケットボールリーグ」しか知らなかった身からすればまさに隔世の感がある。選手のパフォーマンスのみならずアリーナ内の雰囲気は、自分が米国で体験してきたNBAに近いものすら感じている。

 これまで何人かの外国人選手たちから様々な話を聞かせてもらったが、Bリーグ誕生により実力ある外国人選手を日本に呼び寄せる環境が整ったようで、選手の中には「近い将来(アジア随一の)中国リーグのようになるだろう」と予測するほどだ。もちろん優秀な外国人選手が集まってくればリーグのレベルも上がってくるし、彼らとマッチアップすることで日本人選手の実力も必然的に向上してくる。まさにBリーグは、日本バスケ界の明るい未来へと導いてくれる象徴的な存在ともいえるだろう。

気になるレフリーの“コントロール力”

 だがその一方で、多少の不安要素が残されているように思う。その1つが現在のレフリー制だ。これまで試合を現場で観戦しながら、レフリーのいわゆる“コントロール力”に疑問を感じてしまう場面をたびたび目撃している。3人のレフリーの連係がうまくいかずポゼションの意思統一ができず試合が止まってしまうなど、試合進行が決してスムーズではないのだ。

 またどの試合でも、プレーが止まる度にコーチや外国人選手たちがレフリーと意見交換している場面が多く見られる。もちろんNBAなどでも見られる光景ではあるのだが、ここまで頻繁ではない。それだけ判定についてレフリー、コーチ、選手が意思統一できていないことになる。レフリーはオーケストラでいえば指揮者のような存在だ。現在のBリーグのレフリーは選手たちをまとめ上げ、彼からが心から演奏に集中できる環境を演出できていないように思える。

 例えば11月5日に行われた滋賀レイクスターズ対京都ハンナリーズ戦の出来事だった。第4クォーター途中で岡田優介選手が退場処分になったのだが、岡田選手自身のみならずチームもなぜ処分を受けたのか釈然としない様子だった。試合後の記者会見でも浜口炎HCは「ああいいうかたちで優介が退場になってしまって…。ルールはよくわからないですけど非常に残念です」と表情を強ばらせた。

BリーグHCたちの心情

 この試合では滋賀のショーン・デニスHCも序盤からレフリーに判定の確認をすることを繰り返し、時折不満の表情を浮かべていた。さらに両チームの選手たちがレフリーと意見交換するシーンも何度も繰り返されていた。端から見ていても明らかにレフリーと両チームの間に“溝”があった。試合後の会見でデニスHCは「リーグ批判をするつもりはない」とした上で、以下のように話してくれた。

 「(レフリーの判定は)難しい部分ではあります。特にローポストのプレーでのファーストボールについての解釈については、まだ不安定な部分があるように感じています。(両チームの)ビックマンたちがアドバンテージを取られるようなルールの解釈になっているような気がします。その中で我々もルールの中でアジャストしていって、どういうかたちでディフェンスできるかをレフリーに聞いているのですが、それに関してグレーな部分が多いので、我々だけでなくどのチームのコーチも何が答えなのかまだわからない状態が続いています。そこが一貫性がでてくればいいと思っています。もちろんフラストレーションを感じることもありますが、それは京都のコーチも同じように感じているでしょう。

 レフリーを含め外の要因は自分たちでコントロールできないわけで、そこにとらわれないように自分たちができることだけに集中してやってほしいと選手たちには言っています。もちろん自分にも同じことを言い聞かせながらやっていますが、ハーフタイムに感情的になったこともありました。でもレフリーに怒るような態度を見せることによって選手たちに彼らのケアをしているんだという合図を伝えるために故意にやっています」

 京都の浜口HCも同様の意見を持っているようだ。

 「選手にはレフリーは試合の一部であって、唯一僕らがコントロールできない部分であるということは伝えていますし、それが大前提にあるのは理解しています。

 現状はプロ・レフリーが1人しかないという中で、僕らコーチや選手はプロですけど、彼らは現実的にアマチュアなわけです。選手やコーチが退場になったり何かあった場合は、オフィシャルを通じて罰金を科せられ、選手やコーチだけ出場停止になるわけです。NBAやユーロ・リーグならレフリーがミスしたり、何か問題を起こせば、レフリーの名前が公表されて出場停止になることで、お互いがプロフェッショナルな立場なんです。

 その部分に関しては今すぐ改善できないと思いますけど、まだまだ改善しなければならない部分はたくさんあると思います。現状はどのコーチもどの選手もフラストレーションを溜めながら我慢しながらやっている状況で、ただ強いチームはそんな中でもしっかり勝っていますし、そういう状況をしっかりコントロールしながら勝っていくのが強いチームだと思います」

 以上のように両コーチともに現状に満足しているわけではない。しかし彼らは現状を受け入れるしかない状況にあることも理解している。

レフリーの現状

 すでに昨シーズンから指摘されていることだが、浜口HCが説明するようにBリーグを担当するレフリーの身分は基本アマチュアだ。Bリーグに審判を派遣しているJBAに確認したところでは、現在JBA公認のS級審判のうち65人がBリーグを担当しているが、プロ契約しているのは9月にプ発表された加藤誉樹氏ただ1人で、残りのレフリーは平日に従事している生業を有している。つまりレフリー業務は彼らにとって“パートタイム”なのだ。

 ただ65人のレフリーの中には13人のFIBAライセンス取得者も含まれている。JBAによると、現在FIBAライセンスは各国に割当制になっていおり、日本はFIBAランキング上位国の14に続く13が割り当てられそのすべての枠を埋めるレフリーがいる状況で、国際的にみても上位国並みのレベルにあるという。

 Bリーグが始まってからはレフリーたちは試合前にテクニカル・ミーティング、試合後にも反省会を実施しているという。またBリーグになってからは全試合を映像として残しており、審判部も含め常に映像をチェックしながらテーマや課題を見出す環境を整えているようだ。レフリーも現状の中で最大限の努力をしているのだ。

 だが週末しかレフリー業務に携われない以上、どうしても限界がある。リーグのレベルは加速度的に上がってきているのに、レフリーたちが試合以外で自分の技術を磨く場はかなり限られてしまう。NBAなどではレフリーの技術向上を図るため現在ではVRを駆使したトレーニング・プログラムを導入しているほどだ。Bリーグのレフリーたちにもそうした時間が絶対に必要なはずだ。

 またレフリーの配置に関しても生業に影響が出ないように移動範囲が限定されるため、必然的にすべてのレフリーを平等に全国に派遣するのは不可能になるし、そうなれば判定に地域差が生じてしまう可能性もでてくるだろう。

レフリー完全プロ化の可能性

 この現状を打破するためには、レフリーの完全プロ化が最善策であることは誰もが認めるところだろう。そうなればレフリーは試合以外の時間を技術向上に充てるができ、また平日にも試合が組めるようになるのでバランスのとれたスケジュールが可能になるので、試合数を増やすこともできるだろう。しかしそれを実現することがとてつもなく困難であることも衆目の一致するところだ。

 果たしてBリーグは眼前にあるこのジレンマをどうやって解消していくのだろうか…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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