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ファンは本当にNFLを見限ったのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
トランプ大統領との対決が鮮明になった後もスタジアムに足を運ぶNFLファン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 先月22日にアラバマ州で行われた演説で、米国内で表面化している人種問題に抗議するため国歌斉唱時にひざまずく行為を行ったNFL選手を、トランプ大統領が侮蔑的な表現を用いて批難したことをきっかけに、NFLと大統領が批判合戦を繰り返すという全面対決へと発展していったのは周知のことだろう。

 対決姿勢がNFL内に広がっていく中、国歌斉唱時にひざまずくことを含め、選手やリーグ関係者の間で大統領に向けた抗議活動も拡大の一途を辿った。それは現在も続いているのだが、米国社会では今なお賛否が分かれている状況だ。

 トランプ大統領は批判の一貫として、国歌斉唱時にひざまずく行為を「国、国歌、国旗を侮辱するもの」とし、ツイッター上で「NFLの観客動員と視聴率は極端に落ちている。試合が面白くないだけでなく、皆が国を愛しているから(NFLから)遠ざかろうとしている」と談じている。トランプ大統領の批判演説以来NFLは3週分の公式戦を消化しているのだが、大統領の主張通りファンは抗議活動を続けるNFLを見限ろうとしているのだろうか。

 まず観客動員数をチェックしてみよう。9月22日以降NFLは3週分で全46試合の公式戦を実施している。ただし9月23日のタイタンズ対ジャガーズと9月30日のセインツ対ドルフィンズ戦はロンドンで開催されているのでこれらを対象外にすると、米国内で開催された44試合の内過半数の23試合が満員のファンを集めている。

 また満員になっていない試合でも占有率はほぼ90%台で推移しており、いずれも好調な観客動員を記録している。中には10月8日のシーホークス対ラムズ戦のように、9万以上収容できるスタジアムに6万しか入らなかった試合もあったが、この試合のホームチームであるラムズは現在新スタジアムを建設中でLAコロシアムを臨時使用している状態。今シーズンはこの試合に限らず常に6万人前後で推移しており、一連の騒ぎが影響したわけではまったくない。

 次に視聴率を調べてみたい。スポーツ関連の視聴率をデータ化している『SPORTS MEDIA WATCH』によれば、シーズン開幕から前年と比べて視聴率が全体的に落ちている傾向にあるのは確かだ。だが試合の中には昨年を上回る視聴率を記録しているものもあり、一概に“NFL離れ”が起こっているわけではなさそうだ。

 この視聴率低下傾向について『CNN』ウェブ版は分析記事を公開しているのだが、NFLの開幕週は米国南部を襲ったハリケーン「イルマ」と重なってしまったことなども影響しているとしながら、「まだまだ深刻な状況ではないし、今でも高い視聴率を誇るコンテンツ」としている。

 以上のように観客動員数、視聴率を調べる限り、トランプ大統領が指摘したようなファンがNFLから離れようしている様子は確認できない。現在もNFL内で抗議活動は続いている一方で、ここ最近大統領の反撃は鳴りを潜めつつある。

 一致団結して対決姿勢を示すNFLに対し、反撃の糸口を失いつつあるトランプ大統領。果たしてこの決着はいつ、どのようになされるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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