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41歳にして今なお選手の深みを増そうとしている楽天・松井稼頭央の真摯な姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
いつも自分と向き合いながら調整を続ける楽天・松井稼頭央選手

今シーズンの松井選手は、プロ24年目で“初めて”の挑戦に取り組んでいる。

ここまでチームは63試合を消化しながら、松井選手の出場試合数は1/3にも満たない20試合。今更説明をする必要はないと思うが、今シーズンは彼の野球人生で初めてシーズン開幕から控え選手役に回っている。

昨シーズンも極度の打撃不振か6月に出場選手登録を抹消され、8月に再び一軍に戻ってきて以降は先発機会が減ってしまった。結局昨年の打率は自身最悪の.213に終わり、悔しさが残るシーズンとなってしまった。

昨年の成績からも理解できるように、これまで先発選手として試合に出続けながら調整していくのが当たり前だった松井選手にとって、試合間隔が空く中で調整をしていくのは決して楽な作業ではない。今シーズン突如として出場機会が減ったイチロー選手が、開幕から打撃不振に陥っているのを見ても明らかだろう。

シーズン開幕前に梨田監督から現在の役割を告げられたという松井選手は、どのように新たな役割に対応していくか、いつも自分と向き合いながら調整を続けている。その中で現時点での成績も.276、1本塁打、7打点、出塁率.345と、まずまずの成績を残している。当の松井選手本人は現在の状態をどのように分析しているのだろうか。

「いい感じとはいえないと思いますけどね。打席数が少ない中で(打撃の状態が)良い、悪い(を見極めるの)はなかなか難しくて…。自分の中ではその辺りの気持ちを切り替えて、次に出番が来るまでの準備として練習はしっかりやっておこうと。あとは試合は結果(が求められる)じゃないですか。でも気持ちの部分もあると思う。そこまでの準備として1週間なら1週間、ランニングしたりとかメニューを組んで試合に臨んでいます。そこ(準備)だけはしっかりしておきたいなと思ってます。

(今の出場スタイルは)やっぱり難しいですよ。そう簡単に慣れるもんではないと思うけど、でもこういう中でも(チームに)いれてるわけですから。そこは自分の中でしっかり分けて、出番の中でチャンスをもらったと思って思い切りやって、というふうにやっています。それ以上考えてしまうと難しくなってしまう。当然チームとして戦っている部分があります」

決して今の打撃に満足しているわけではないし、今までのようにそれをしっかり見極められるほど打席にも立てていないのが実情だ。しかしチームスポーツに携わる選手として、チームから与えられた役割を必死にこなそうとしている。その難しさは打撃ばかりではなく、コンディショニングにおいてもだ。

「例えば(次の出場まで)2週間あったら、その分走らないといけない。でも走ったからといって試合に出た後の(身体の)張りというのはまた違いますからね。人工芝だとあまり走らないんですけど、(本拠地の)koboスタではなるべく走るようにしています。(メンタル面の準備に関しては)前もって『明日行くぞ』とか『次行くぞ』と言ってくれるので、その日にスタメンということはないので、そこは僕もやりやすいかなと思っています」

控え選手といえども次の先発出場に備えて体力、コンディショニングを維持していかねばならない。もちろん松井選手が説明するように、試合に出続けることで生じる身体の張りと普段の練習の張りは違うものだ。その中で自分の感覚で判断しながら調整を続けていくしかない。いくら実績十分の松井選手でも、控え選手としての調整の難しさはあくまで初めての経験だ。その中で昨シーズンは上手くいかなかった打撃をしっかり作り直そうと取り組んでいる。

「(打撃が昨年より上向いているのかは)こればかりはわからないです。でもあそこ(打席)に立てば打とうと思っていってます。その中で去年もそうでしたけど、自分の中で今年変えなければいけない部分があるんじゃないかとは思っています。当然年齢も違ってくるし、それによって身体も違ってくるので、当然バッティングも変わっていくと思うんですよね。そこは柔軟に(考えながら)試せる機会があれば試していきたいところもあります。

(新たな取り組みで)打席数が足りないということはないです。練習で試せたりできることはあります。今はチーム状態も良いし、その中で使ってもらっているので…。(打席に)立ちたいと言えばそうなんでしょうけど、チーム内の自分(の立ち位置)を当然把握しているので、その中で自分のできることをしっかりやろうというだけです」

かつて松井選手がメジャーに挑戦して当時、打撃に関して調子が落ちた際は調子が良かった時に“戻す”のではなく、現在の肉体、コンディショニングに考慮しながらそこから新たなものを“生み出す”という一流プロ選手の思考回路を初めて自分に教えてくれたのを今でも鮮明に記憶している。松井選手は今もそれを実行し続けているのだ。

これまでプロ野球屈指の身体能力を誇り、41歳でも素晴らしい肉体を維持している松井選手。もちろん今でも毎試合出場できる状態にあるだろう。だが現在の松井選手の頭の中にあるのは、与えられた状況で如何に自分の役割を果たしていくのか、ということしかない。そして好調を維持するチームの中で自分の役割を果たした時こそ、松井選手は更に選手としての深みを増していることだろう。

つい先日、現役最年長野手の井口資仁選手が今シーズン限りの現役引退を表明した。その一方で1歳年下の松井選手は、プレーする場がある限り現役を貫きたいと考えている。彼の真摯(しんし)に野球に向き合う姿勢がある限り、まだしばらくの間は彼がスタンドに立つ姿を見られると期待して止まない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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