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楽天主砲・ウィーラーが見せる“チャンスメーカー”としてのもう一つの顔

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
好調の楽天打線の中で4番として幅広い活躍を続けるウィーラー選手

6月17日の阪神戦。2-2で迎えた8回だった。先頭打者のウィーラー選手が四球で出塁すると、次打者の2球目に相手チームの意表を突き二盗を敢行する。捕手の送球が大きく逸れたこともあり、難なくチーム最多の6個目の盗塁に成功し、大事な局面で無死2塁とチャンスを広げた。その直後TV画面に映し出された梨田監督の表情はやや苦笑いを浮かべているようにも見えた。

その後の結果だけを見れば、1死から島内選手の決勝左越え三塁打が飛び出したため、ウィーラー選手は一塁からでもホームに戻ってくることはできただろう。だが見方を変えれば、ウィーラー選手の盗塁があったからこそマテオ投手に強烈なプレッシャーを与えることになり、そのため藤田選手の決勝打、さらにはペゲーロ選手の満塁本塁打に繋がったのではなかろうか。まさにこの試合のカギを握る走塁だったと言っていい。

「あれは自分の判断で走った。2対2の8回だったし、相手の守備にプレッシャーをかけたかった。とにかく(後に続く)チームメイトのため(得点できる)絶好機をつくろうとした。(走者がない時は)ヒットだろうが四球だろうがとにかく塁に出ることを心がけている」

あの場面は一発長打がある4番打者なら一発を狙いにいってもおかしくはない。だがウィーラー選手が説明しているように、彼は荒れ球だったマテオ投手の状況を冷静に見極め、チームの勝利のため間違いなくチャンスメーキングに徹していた。ここまで盗塁成功率100%が示す通り、幅広い視野でゲームを見られているからだろう。

今年で楽天3年目。3、4月こそ打率.191と低迷していたが、5月以降は一気に上り調子に。交流戦でも.359、5本塁打、15打点(6月16日現在)と主軸として期待通りの活躍を続ける。

「1年目に苦しんだだけに、嬉しいターンアラウンド(転換)だね。今は毎日同じ気持ちで野球に取り組めるようになっている。何か自分の打撃を変えたわけではない。多分日本のスタイルや投手に慣れたことがあるかな。最初は日本の野球に適応しなければならず、アメリカでやっていた時のような自信を持つことができなかったからね」

確かに成績を比較しても1年目、2年目、3年目と打撃成績は着実に良くなってきている。米国でのマイナー通算打率は.274だったことからも、ウィーラー選手の言葉通り、今では彼本来の打撃ができるようになった証拠だろう。

ちなみに今シーズンの個人的な目標を聞くと、意表を突く答えが返ってきた。

「バッティングに関しては何もない。ただ盗塁は10個決めたいね(笑)」

今回話を聞かせてもらう中、ウィーラー選手は何度となく「(We will)see what happens.(何が起こるか見守ろう)」というフレーズを使っていた。とにかく結果を気にせず全力を尽くすという、彼のプレースタイルを垣間見られた気がした。

「このままの調子を維持しながら後半戦に臨みたい。後半戦は(自分たちにとって)大きな意味を持つだろう」

4年ぶりのリーグ制覇を目指すチームにとって、ウィーラー選手は今後さらに重要な存在になりそうな気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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