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ソフトバンク五十嵐が見せ続ける投手としての熟成

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンも貴重なリリーフ投手として活躍を続けるソフトバンクの五十嵐亮太投手

5月18日のオリックス戦で、6回1死一、三塁の場面に登場すると、見事に無失点で切り抜け今季4勝目を挙げた五十嵐投手。今シーズンは8回岩嵜投手→9回サファテ投手という“勝利の方程式”へのつなぎ役として難しい場面での登板が続いているが、ここまで(5月19日時点)18試合に登板し、4勝0敗4ホールドで、防御率は1・06と絶対的な安定感を誇り、リーグ1位に輝くリリーフ防御率(2・32)の原動力にもなっている。

好調の要因の1つに挙げられるのが、昨年11月に単独参戦していたメキシコのウィンターリーグだろう。同リーグに参加した目的やそこで掴んだ収穫等については、すでに『投手として更なる高みを目指す37歳五十嵐亮太の飽くなき探求心』でまとめさせてもらっている。

だが改めて五十嵐投手から話を聞かせてもらったところ、どうやらメキシコでの経験を経た後でも、今なお試行錯誤と進化を繰り返しているらしいのだ。現在の状態を以下のように説明してくれた。

「メキシコでやっていた時とはまた違うんですよね。メキシコの時は昨シーズン終盤で変えたフォームを安定させるためだったり、変化球の精度を上げるためにいったんですけど、またキャンプで違うかたちになってきているんです。

ある意味メキシコでやったことは良かったことは良かったんです。でもその時(キャンプ)に良かったものをチョイスしながらというか…。自分の中では変えるのが辛かったんだけど、そこを堪えて変えていって、その時のベストを見つけられたかなと…」

つまりメキシコでフォーム固めをしたはずだったのに、キャンプ中に新たな発見をしたことで、またフォームの微調整に着手したというのだ。もちろん具体的にどうしたのかも説明してもらった。

「ヒジを下げたというか、ちょっとスリークォーター気味に投げた方が真っ直ぐの勢いが良かったんです。それにプラスアルファで、フォークボールだとかカーブのタテの落ち方が(今までとは)ちょっと違った気がしてきたんです。本当見てわかるか、わからないくらいのところなんですけど、感覚としてはかなり違うんです」

更に真っ直ぐの質を良くし、変化球のキレを出すため、五十嵐投手が下した結論がフォームの微調整だったというわけだ。

五十嵐投手がここまで細心の注意を払うのは、それなりに理由がある。日本では球団数が少ないため対戦回数が多く、どうしても打者が投球に慣れるペースが速くなってしまう。実は2015年に54試合に登板し、防御率1・38の好成績を残し日本一に貢献したシーズンでも、真っ直ぐとカーブを主体とする組み立てに五十嵐投手自身は行き詰まりのようなものを感じていたのだという。

結局メキシコではカーブの精度を上げることしかできなかったようだが、キャンプ中にフォームの微調整を続けながら他の変化球の精度も上げていき、現在は2種類のカーブ、フォーク、カットボールを投げ分け、組み立てにバリエーションをつけられるようになったようだ。

その一方で、今でもメキシコでの成果が十分に発揮されている部分もある。投球に臨むメンタル面だ。前述通り、今シーズンは難しい場面での登板機会が多く、心身ともに準備するのが決して簡単ではない。それがメキシコでは所属チームの勘違いで先発を任させられる羽目になり、それを無難にこなすことができたことで、どんな場面でもいけるという自信に繋がったようだ。

「気持ち的に(どんな場面でも)『自分はできる』っていうだけでも違うのかなと思います。(メキシコで)7試合投げてきて、それこそ今までプロに入って1軍で投げ始めてから19年くらい(先発で)投げてないわけですよ。でも1週間とか調整したらいけるんだなという自信ができたし、今でも3、4回ならいけるというメンタル的な余裕が僕にとっては大きいかなと思います。

もちろん(簡単に結果が出せるほど)甘くはないんですけど、まず第一段階として(慣れてない場面での登板が)メンタル的にいけるか、どうかというのは排除されますよね。『いけるか?』と言われれば『やりましょう』と。もちろん結果は分からないですけど(笑)」

この充実したメンタルこそが現在の五十嵐投手を支える大きな原動力になっているようだ。毎年オフには米国に渡りみっちり自主トレを続ける五十嵐投手だが、さすがに年齢的な体力の衰えは感じているという。しかしその一方で、メンタル面に関しては衰えを知らないばかりか、前述通り常に自分の投球と向き合う姿勢は向上し続けている。

「(体力は)極端には落ちていないと思いますけど、そこは年齢を重ねれば(落ちるのは)仕方がないことです。ただメンタルがそれと一緒に落ちていってはいけないんだと思います。そこら辺の意地というか向上心は持ち続けたいです。

(投球の)軸というのは変わりないんですけど、バリエーションだったり、新しいものを吸収することだったり、新しいものをみつけてそれを引き出す能力というのは大事だと思います。その辺の感覚は大事にしていかないといけないし、それをしていかないと多分この先やっていけないんじゃないかというのはありますね。

自分を変えることに対して、(以前は)なかなか難しかったですよね。いろいろなものを吸収することであったり、フォーム(の修正)であったり、変える恐さというのがなくなりました。アメリカに行っている頃からですかね。大きく変えすぎて、そこからどんどん崩れていくような変え方さえしなければ、ある程度リスクがあっても変えていける自分なりのメンタリティがあります。

だからもうちょっと新しい球を投げようかと思った時、これに取り組むことでフォームがおかしくなるからどうしよう、じゃなくて、とりあえずやってみる。それでダメなら止めればいいしっていう踏み込みができるようになりました」

投球を良くしたいという発想力、探求心、そして実行力は、むしろ伸びしろしかない少年時代に戻ったような純粋さを感じさせる五十嵐投手。まだまだ当分はマウンド上で彼の勇姿が見られそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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