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ムネリンの予感が的中?DeNA新守護神が成功するだろう人間性とストレスフリーな日常

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年カブスで川崎選手(左)と地区優勝を祝い合ったパットン投手

「久し振りだね、元気にしていたかい?」

甲子園球場の室内練習場で自分を見つけるなり、スペンサー・パットン投手は笑顔で近寄り、握手を求めてきた。昨年10月のカブス公式最終戦以来の再会だった。

昨シーズン序盤に3Aに降格した川崎選手の取材に回り、試合前にランチをともにした時、「寿司が大好きな選手がいるから連れて行きたい」と紹介されたのがパットン投手だった。それ以降川崎選手を介さなくても、時折会話を交わす間柄になっていた。シーズン終盤は川崎選手とほぼ同時期にメジャーに昇格したこともあり、公式戦最後まで顔を合わせていたのだ。

そしてシーズンオフにパットン投手のDeNA入りのニュースが飛び込んできて以降、ずっと彼の動向に注目してきた。馴染みの選手がNPB入りしたというのもあるのだが、それ以上に川崎選手から「彼を日本に連れて行きたい。絶対活躍できると思うよ」と聞かされていたからだ。ここまでの活躍を見る限り、川崎選手の慧眼(けいがん)に狂いはなかったようだ。

もちろんパットン投手の実績は折り紙付きだ。メジャーには定着できなかったものの、2014年以降は毎年メジャーの公式戦で登板を果たし、マイナーではセーブ機会に47回登板し45セーブを記録(つまりセーブ失敗は2回だけ)するなどクローザーとしての実績も申し分なかった。成績だけみれば、十分に日本で活躍できる投手だった。

だがこれまでパットン投手のような実績ある投手でも、すべての選手たちが日本で成功を収めてきたわけではない。やはり野球を含め米国とはまったく異にする慣例、慣習の日本にしっかり適応できる人間、そして選手としての素養が必要になってくるのだろう。川崎選手はその点も見極めた上で、パットン投手の活躍を予想していたはずだ。

結局パットン投手とは世間話も含め20分ほど話をさせてもらったのだが、とにかく彼が日本での新たな野球人生に前向きに取り組み、心から現在の状況を満喫しているのがヒシヒシと伝わってきた。以下、パットン投手の発言を抜粋してみた。

「エージェントと話をし、今後の自分の野球人生を考えた上で、日本に行くことがより良い選択だという結論になったんだ。この地で新しい経験を積むことで選手としてさらに成長できると考えた。今でも自分の決断に満足しているし、ここまでは間違いなかったと感じているよ。

もちろんアメリカとはまったく異なる文化の国に行くのは大変なことだと理解していたけど、逆にそこでどんな人生を過ごすことができるのかを見極めたいという気持ちもあった。実際に大変なこともあったりするけど、通訳がいつも側にいてくれるし、新しい生活を楽しんでいるよ。

キャンプ終了後に横浜に戻り、オープン戦を戦う頃から随分と新しい生活に慣れてきたかな。別に迷子になるのは怖くないし、自分で電車に乗ったこともあるし、食事に出かけたりもしているよ。あまり時間がかからずに気分良く過ごせているかな。

ここまでいいスタートが切れたと思っている。キャンプでもいい投球ができたし、シーズンが始まってもいい投球ができている。でも日本の打者は凄く研究熱心でしっかり対策を練ってくるので、自分の投げる球を見極められ打たれた試合もある。こちらもそれに対応していかねばならない。

日本の打者はスタイルもアプローチも全然違う。自分も従来の投球スタイルではなく、新たなスタイルを学ばなければならない。カワサキからも忠告されていたけど、日本の打者はどんどん早いカウントから仕掛けてくる。アメリカだと打者はじっくり構えているので2ストライクまでは簡単にいくけど、日本ではそうはいかない。自分はどんどんストライクを投げるタイプだから、そこの対応はしっかりしないといけない。それができるようになれば投手としても成長できると思う。

ここまではいい対応ができているけど、日本は同じチームとの対戦が多いから今後もしっかり対応していかないといけないと理解しているよ。今後も打者に対応しながらしっかり球種を投げ分けていきたい。そうやってこれまでの成功してきたからね。これからシーズンが進むにつれ、もっといい投球ができるようになると自分自身も期待している。

勝つために日本に来たんだ。そのためにやる気も十分だ。5回で投げようが9回に投げようが関係ない。とにかく優勝したい。去年カブスで経験できたら、ますますその思いが強くなっているんだ。またこのチームはすごくカブスに似ている。若くて才能溢れる若い選手がたくさん揃っているし、皆が優勝したいと思っている。楽しみだよ。

個人的にはいつも同じような目標を立てているんだけど、SO/BB(三振数/四球数)を高く維持すること、WHIP(1ニング辺りの被安打+与四球数)を下げること、それと本塁打を打たれないことを心がけている。でももう打たれちゃったけどね(笑)。そうした小さな目標だけで、あくまで大きな目標は優勝することだ」

如何だろう?パットン投手の充実ぶりを感じ取ることができるだろう。グラウンドを離れても食事を常に食事をともにするほど通訳との関係は良好で、さらにアレックス・ラミレス監督とは英語でやりとりができ、チームスタッフにも米国留学経験者がいるらしい。

また同じく今シーズンからDeNAに入団したジョー・ウィーランド投手は昔からの知り合いで、フィル・クライン投手に至っては2年間レンジャーズのメジャーとマイナーでチームメイトの関係で家族ぐるみの付き合いをしているほど仲がいいそうだ。まさにパットン投手にとって理想的な環境も整っていると言えるだろう。

野球環境ばかりでなく、すっかり日本自体も気に入っているようだ。

「この間札幌で寿司を食べに行ってきたんだ。あんな美味しい寿司を食べたことがなかった。今までアメリカでは巻き寿司ばかり食べていたけど、にぎり寿司があんなに美味しいなんて初めて知ったよ。寿司だけでなく日本の食事はすごく質が高くて最高だよ。これからも遠征先でいろいろなご当地料理にチャレンジしたいと思っている」

日本の野球を下に見ようとはしない向上心と、公私ともにストレスフリーな充実した日常生活。川崎選手ほどの慧眼はないものの、これからもますますパットン投手の活躍が期待できそうな気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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